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October 06, 2007

角田光代『八日目の蝉』○

 初出「読売新聞」夕刊。2005年11月21日〜2006年7月24日。05年に『対岸の彼女』で第132回直木賞を受賞した角田光代の初の新聞小説。
 何をしようってわけじゃない。ただ、見るだけ――不倫相手の家に忍び込んだ野々宮希和子は、ベビーベッドに寝かされてた赤ん坊を見て思わず連れ去ってしまう。それは、ひいては四年間にもわたる逃亡生活の始まりだった。誘拐犯として追われる身となった希和子は、薫と名付けた赤ん坊とともに、世間の目を逃れ、ときには差し伸べられる救いの手を借りて逃げのびる。希和子がしていることはむろん許されないことだが、圧倒的に不利な条件のなか、ただひたすらに逃げおおせようとするひたむきさに肩入れしてしまう。もういいから、そっとしといてやれという気になる。
 やがて希和子は逮捕され、薫は産みの親のもとに戻る。第2章は事件から20年後、成人した薫の物語である。サスペンス色の強い第1章を引継ぎながら、ほんとうの居場所を追い求める若い女の心象がたくみに描き込まれている。
 誘拐犯に育てられた子を迎えたのは、あたたかで満ち足りた生活では決してなかった。恵理菜という元の名に戻った彼女は、当時の記録を手がかりに、幼き日々を検証して行く。希和子の足跡をなぞるように歩み始める恵理菜。二人の運命が交差するフェリー乗り場のシーンは圧巻である。
 本作はもとより、町田康の『告白』や吉田修一の『悪人』など、さいきん新聞小説に力作が多いですね。

★★★★☆(2007.6.11 白犬)

中央公論新社 1600円 978-4-12-003816-7

posted by Kuro : 23:14

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