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October 07, 2007

重松清『カシオペアの丘で(上・下)』○

 2007年7月〜2004年1月にわたり山陽新聞、信濃毎日新聞など全12紙に掲載された同名作品を全面改稿。新聞連載の内容のうち「そのまま使ったのは3行ほど」(2007年6月5日「本よみうり堂」著者談話より)で、登場人物もストーリーも一から書きかえたというから、ほとんど改作であろう。原稿枚数が800枚から1400枚になったことからも著者の思い入れがかんじられる。
 1977年のある日曜日。名もなき丘から見上げる夜空にボイジャーを見つけに行った小学4年生の仲良し4人組は、おとなになったらこの丘にみんなで遊園地をつくろうと誓い合う。30年後、地元で小学校教員となった美智子と市職員の敏彦は結婚している。車椅子生活をおくる敏彦は、かつての丘に建造されたカシオペアの丘と名付けられた遊園地で園長をつとめているが、開業以来の経営不振から早くも閉園が検討されてもいた。そんな夫婦のもとに、やはり4人組のひとりだった俊介から末期癌であることを告げるメールが届く。
 死に向かう者と残される者たちの物語である。39歳の若さで5年生存率15%と診断された俊介は、偶然にもテレビ画面に映し出された観音像を見て運命の皮肉を思う。丘のうえから街を睥睨するようにそびえる巨大な観音像は、俊介が故郷を捨てる遠因をつくった彼の祖父が建立したものであり、その祖父もまた死に向かおうとしている。そして幼なじみ4人の再会のきっかけとなる、東京郊外で起きたある悲惨な殺人事件。本書ではこの三つの死が描かれる。
 かつて炭鉱都市として栄えた街の歴史を背景に描かれる死と生。ひとつの死をめぐって浮き彫りになる家族というもののあり方。身近なひとの死に立ち会ったことのない読者でも、自身の身のうえに重なるエピソードを見つけることができるだろう。ひとは一度しか生きられない。「あなたが、あなたをゆるせばいいんですよ」という医師の言葉は、残される者にこそ必要なのかもしれない。重松清の真骨頂。

★★★★☆(2007.7.10 白犬)

講談社 上・下各1500円 978-4-06-214002-7978-4-06-214003-4

posted by Kuro : 22:21

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