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September 02, 2007

吉田修一『悪人』○●

 初出「朝日新聞」2006年3月24日〜2007年1月29日。連載時は現代美術家・束芋(たばいも)氏の挿絵が印象的でした。
 福岡市と佐賀市を結ぶ国道263号線の県境、脊振山地の三瀬峠で起きた殺人・死体遺棄事件をめぐる物語。著者本人が執筆前に舞台となる福岡や佐賀、長崎をドライブして回ったというから、九州北部に土地勘のある読者なら、地続きの広がりをもった作品として読むことができるだろう。九州地方の方言で交わされる会話も地の文によく乗っていてリアルな迫力がある。
 長崎近郊に住む若い土木作業員はなぜ福岡の保険外交員を扼殺することになったのか。
 この出会い系サイトで知り合った二人はぜんぜんイケてない。でも女のほうはつねに計算づくで、男のほうはもう気の毒なくらいマジ。しかし、そんな温度差がストレートに犯罪に結びつくわけではない。まず偶然があり、個々人の都合があり、めまぐるしくうつりかわる情況がある。そんな神でもなければ知りようもない事件の“裏側”を、二人の家族や交友関係をもふくめて多面的に描くことで殺人者のことわりに迫る。じゅうぶんに彼を知った読者は、「悪人」というタイトルに込められた著者の思いに気づくだろう。
 人の数だけストーリーはある。「最高傑作」という宣伝文句はだてじゃない。

★★★★★(2007.6.10 白犬)


 すごかった。傑作だと思った。ほんとにまあ現実の世界でも、悪人らしからぬ悪人、善人らしからぬ善人が多くなりましたからなあ。

★★★★☆(2007.8.10 黒犬)

朝日新聞社 1800円 978-4-02-250272-8


posted by Kuro : 23:51

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吉田修一 著 「悪人」 おそらくは著者、渾身の一作なのではないかと思いましたね。 それは、本の厚さからも伝わってきましたよ。 それならばと、... [Read more...]

トラックバック時刻: November 17, 2007 02:53 AM

comments

TBさせていただきました

著者が並々ならぬ覚悟でこの作品に取り組み、できる限りの力を注いだという熱意が伝わってくるような本でした。

投稿者 タウム : November 17, 2007 02:49 AM

タウム様、トラックバックありがとうございます。
ほんと、力作でしたねえ。

投稿者 黒犬 : November 17, 2007 04:47 PM

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