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February 01, 2005

角田光代『対岸の彼女』○●

 初出「別册文藝春秋」2003年11月号〜2004年7月号。第132回直木賞受賞作。
 3歳の子供がいる34歳の主婦、小夜子は、結婚前のように働きに出ることを決心する。立て続けに不採用が続いた後、小さな旅行会社に受け入れられる。関連業務として新しく始める掃除代行業の要員、つまり「お掃除おばさん」として小夜子は雇われたのだった。社長は同じ34歳で独身の葵。偶然にも出身大学が同じで裏表のない性格の葵に小夜子は惹かれて行く。
 年増女は〈負け犬〉と〈勝ち犬〉の二種類に分類されてしまうきょうこのごろ。じゃあ結婚してても子ナシのわたしはさしづめ野良犬かしら。なんて、そんなヒガミは置いといて。はは。
 育ちも性格も生活環境も違う二人の女が、仕事を通じて歩み寄って行くさまを描く。酒井順子方式で行けば、小夜子は勝ち犬、葵は負け犬の典型だが、二人に共通するのはひとりぼっちだということ。小夜子は若いママたちになじめない公園ジプシー。葵は会社経営者として孤軍奮闘している。
 葵には高校時代に苦い経験がある。小夜子の物語と交互に語られる、誰も知らない女子高生葵と親友ナナコの物語。その幼い関係はいつしか34歳の小夜子と葵に重なって行く。二人が力を合わせて立ち直ろうとするシーンには静かな感動を覚える。
 小夜子の旦那をエバったおポンチ野郎としてあっさり処理しているのが気になるが、ズバズバ言いはするけどけっこういい人の姑が秀逸なので許す。次作期待。

★★★★☆(白犬 2005.2.1)


 2004.11.10初版、2005.1.20第4刷。
 子持ち専業主婦田村小夜子は働きに出ようと決意する。そして、不採用の連続ののちにようやく採用してくれたのは、同い年、同じ大学の卒業生だった楢橋葵の経営する弱小旅行会社だった。その会社で始めた掃除代行業担当者として小夜子は働き始める。一方、はつらつと社長業をしている葵には、隠された過去があった。ストーリーは、小夜子の現在(と同時に葵の現在でもあるが)と葵の過去を交互に綴っていく。
 直木賞受賞作だからというわけではありませんが、さすがにキャリアのある人、安心して読めます。専業主婦小夜子の鬱屈ぶりも、思いつきで行動しているように見える女社長葵とそれに振り回される社員たちの当惑も、適度に細部にわたって書かれており、引き込まれます。
 女同士の友情が成立するかどうかというのは、昔からテーマにされてきましたが、それはたいがい独身女性同士の友情が取り上げられていたように思います。今作品では既婚女性と独身女性、子持ちパート主婦と経営者、どう考えても友情が成立し得ないように思えるふたりをピックアップしているところが面白いところです。
 葵の過去を読み進むにつれて、彼女がどう現実と折り合いをつけていくかに興味が分散してしまい(それはそれで読んでいて切なく、辛いのですが)、中盤ややかったるくならないではないのですが、ラストまで読んでしまえば充実した作品だという印象が残りました。
 なかなか、いいです。

★★★★(2005.2.2 黒犬)

文藝春秋 1600円 4-16-323510-8

角田光代-書評wiki

posted by Kuro : 01:53

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トラックバック時刻: December 19, 2006 04:12 PM

comments

こんにちは。
TBいただいて、有り難うございます。
今、こちらからTBさせていただきました。

たくさん本をお読みでいらっしゃるので、
つい、厚かましいお願いをしてしまいます。
もし、よろしければ、私の2月6日の
【恋の始まり】小説・映画編
で、該当する作品をお教えいただければうれしいです。

これから、こちらの次のページ「野ブタ。」を拝見します。

今後ともどうぞよろしくお願いします。

投稿者 ahaha : February 7, 2005 12:14 AM

ahahaさま。

コメントとトラックバックありがとうございます。最近はじめたばかりのブログですが、今後ともよろしくお願いします。


「一目ぼれ型」か「いつしか型」か、面白い企画ですね。ぱっと「これだ!」というのは思い出せないのですが、思い出せたらエントリーしてみますね。

投稿者 黒犬 : February 7, 2005 12:51 AM

TBありがとうございました!こちらからもTBさせていただきます!対岸の彼女、なかなか深い作品でしたね。半分読んだあとは一気に読んじゃいました。

投稿者 角田光代応援団! : February 7, 2005 04:41 PM

つかもとさま。

コメントとトラックバックありがとうございました。
あまり期待しないで読み始めたのですが((笑)。本多孝好の「真夜中の五分前」が好みだったので……)、意外や意外、引き込まれてしまいました。
今後ともどうぞよろしく!

投稿者 黒犬 : February 7, 2005 10:28 PM

管理人さま

トラックバックでご連絡頂いたのにもかかわらず、お返事が遅くなり申し訳ありません。skeltia_vergberです。

読み終わってしばらく経ったのにもかかわらず、まとまりのない中途半端なエントリーにTB頂きありがとうございます。
完成次第、こちらもTBを送りたいと思います。
よろしくお願いします。

投稿者 skeltia_vergber : May 3, 2005 10:19 PM

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