« Weblogはじめました | Blog Top | 角田光代『対岸の彼女』○● »

February 01, 2005

三崎亜記『となり町戦争』○●

 販促物の集英社出版四賞授賞式の集合写真を見て、男の子みたいな人だなあと思っていたら、男だった! だって名前、亜記だし。桐野夏生より背小さいし。よく見たらヒゲのそり跡ありました。とほほ
(興味がある方はこちらで)。

 第17回小説すばる新人賞受賞作。
 会社員の北原修路はある日、月に二度配布される町の広報紙『広報まいさか』で、となり町との戦争が始まったことを知る。間もなく修路は町の要請で戦時特別偵察業務従事者に任命されるが、役場の論理で進められる「戦争という事業」を実感することができない。日を追うごとに増える戦死者の数。やがて拠点偵察の任務を負うことになった修路は、役場に新設された“となり町戦争推進室”の香西さんと便宜的婚姻関係を結ぶことになる。
 一般小説というよりユーモア小説やパスティーシュに近い内容だが、戦争や紛争って実際にはこんなものかもしれないと思わせる力はある。一町民としてふつうの生活を営んでいる主人公に役場から“赤紙”が来るわけだが、その後のやり取りや職員の態度が、ばりばりのお役所仕事でおおいに笑える。終盤、ちょっと引っ張りすぎの感はあるが、ひじょうにおもしろく読んだ。次作期待。

『となり町戦争』ここで試し読みができるよ!

★★★★(白犬 2005.2.1)


 2005.1.10初版。小説すばる新人賞受賞作。
 ある日とつぜん召集令状が届いたら……。しかもその戦争は、地方自治体の公共事業だったとしたら……。
 というワン・アイディア小説。てっきり清水義範っぽいコメディなのかと思ったら(実際〈公文書〉が挿し絵代わりに入っていたりして面白いんだけど)、なんだか拍子抜け。思いつきは面白かったんだけど、最後のほうで主人公が妙に賢くなっていろいろと思索してしまうのがアンバランス。恋愛ものとしても中途半端なような。
 文章がおかしいのは新人だからしょうがないとしても(そうなのか?)、せっかくのアイディアなんだから、文章面でももうちょっとブラッシュアップできたのではと思える。勢いで書いたんだろうけれど、じぶんだけが陶酔している感じ。たとえばこんなとこ。

 重々しい扉をあけると、店内は天井からの柔らかな燭光に満たされており、奥行き深い物腰で暖かく僕たちを迎えた。(略)燭光が、香西さんの身体の上をうつろう。その身体は、細くはあるが、芯を失うことなく、清冽な色香を僕に感じさせた。香西さんは、僕の視線に上気した表情を見せた。(p.178)

 うーん、《奥行き深い物腰》ってどんなんだ。光が身体の上を《うつろう》とか《清冽な色香》とか《上気した表情を見せた》とか、なんだかこねくりまわしているわりに、不自然だったり陳腐だったり……。
 こういう作品で世に出ると、今後どういったものが書けるのかが微妙なところだと思うが、アイディアだけでなく文章にも気を配ってほしいと思うのでした。

★★☆(黒犬 2005.1.10)


集英社 1400円 4-08-774740-9

posted by Kuro : 01:26

trackbacks

このエントリーのトラックバックURL:
http://dakendo.s26.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/14

このリストは、次のエントリーを参照しています: 三崎亜記『となり町戦争』○●:

» 『となり町戦争』 from ☆21st Century Comedy
『となり町戦争』 三崎亜記 「小説すばる新人賞」受賞作。 ある日、「となり町との戦争のお知らせ」が町の広報誌に掲載される。 主人公はとなり町との戦争に「戦... [Read more...]

トラックバック時刻: February 6, 2005 06:02 PM

» となり町戦争 from booksjp
ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。だが音も光も気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。それでも戦争は着実に進ん... [Read more...]

トラックバック時刻: May 14, 2005 07:31 AM

» 三崎亜記『となり町戦争』を読む from Think difficult! ::物事をあえてこむずかしく考えてみるブログ
 「あなたはこの戦争の姿が見えないとおっしゃってましたね。もちろん見えないものを見ることはできません。しかし、感じることはできます。どうぞ、戦争の音を、光を、気... [Read more...]

トラックバック時刻: May 17, 2005 01:46 AM

» となり町戦争 三崎亜記 from ゆうきの読書日記(Yu-Ki’s Reading Diary)
ISBN:4087747409:detail ある日突然、「となり町」との戦争が始まります。しかし、日常生活は何も変わらないまま。役場から「偵察員」に任命さ... [Read more...]

トラックバック時刻: July 18, 2005 04:17 PM

» となり町戦争 from まっしろな気持ち
 ある日ふと届く、戦争の知らせ。気配もなく。自覚もなく。覚悟もなく。最も効率的で将来性のある地域の活性化の手段として用いられる戦争。三崎亜記・著『となり町戦争』... [Read more...]

トラックバック時刻: December 22, 2005 11:53 AM

» となり町戦争、三崎亜記 from 粋な提案
カバー写真は横山孝一。第十七回小説すばる新人賞受賞作。 アパートにひとり住まいをしている平凡な会社員で、ある日町の広報誌にとなり町との戦争のお知らせを見た... [Read more...]

トラックバック時刻: August 3, 2006 07:35 PM

» 「となり町戦争」三崎亜記 from Chiro-address
「となり町戦争」三崎 亜記集英社2004-12勝手に評価:★★★★☆読書期間:3日 [Read more...]

トラックバック時刻: July 7, 2007 03:28 PM

comments

物語としてはかなり楽しめましたが、文章の物足りなさには同感です。
でも、楽しんじゃった時点できっと著者の意図にはまっているのだろうか…なんて思ったりもして。
未読の「バスジャック」に期待しようと思います!

投稿者 ましろ : December 22, 2005 11:50 AM

ましろさま、こんにちは。
コメントありがとうございます。
「バスジャック」けっこう評判いいみたいですね。
リキ入れて宣伝してるなあ。
http://www.shueisha.co.jp/busjack/
ちょっと読みたくなってきた、かも(笑)。

投稿者 黒犬 : December 22, 2005 03:02 PM

こんにちは。
だいぶ年数経ってる気がしますが、読みました〜。
確かに妙に難しい言葉とか言い回しが多かったりして、変な感じでしたね。
でも、アイディアとして凄く面白いと思いました。
これから「バスジャック」読みます。

投稿者 chiro : July 7, 2007 05:23 PM

コメントをどうぞ。




保存しますか?