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August 09, 2006

町田康『告白』○

 第41回谷崎潤一郎賞受賞作。初出「読売新聞夕刊」04年3月5日〜05年3月8日+書き下ろし。
 いやあ、これはすごい。明治26年に大阪・金剛山麓の赤坂水分村で起きた大量殺人事件「河内十人斬り」の主犯、城戸熊太郎の事件に至るまでの心象を、はるか子供時代から丹念に追った大長篇。
 ガラのわるいことでは日本有数の河内弁が、文字になるとひと味ちがうというのは発見であった。

「なにわろとんね」
「あ。ごめん。怒った?」
「怒らいでか。なにがおもろいね」
「まあ、怒りなや。あんたらみたいながしんたれがなんも知らんと、どこの餓鬼や、とか言うてるからおもろうてな」
「なんかしとんじゃ。あんまりおちょくってたらどつかれんぞ」
「別におちょくってへんけどな。どうせあんたらここらの水呑百姓の小倅やろ。あんまり僕に偉そうな口きかんほうがええとおもうで」
「そういうおまえはなんやね。良衆のぼんか」
「いや。百姓や」
「ほんなら一緒やんけ。いてまうど、こら」(p.30)

 目で追うスピードだと牧歌的ですらある。土地の人が読むとちがうのかなあ。
 地の文はいつも通り。

 同じく遊蕩に耽りながらその一方では生業は大をなしている。そんなんありか、と熊太郎は思った。
 俺などはみなに馬鹿にされ親不孝をし、富は他家へ嫁に行くし、滝谷不動で助けた泥鰌は鳥に食われてしまう、そんな思いをしてもう土俵際いっぱい、徳俵に足がかかったみたいなところで極道している。しかるに、なんですか、あの熊次郎は? なにを余裕かましているのですか? はあっ? パルドン? と思ったのである。(p.314)

 この文体で、どこにも居場所のない男の懊悩が見事に表現されている。
 町田康版「河内十人斬り」。ずっしりと持ち重りのする、詰まりに詰まった670余ページ。1900円はお買い得。

★★★★★(2006.5.19 白犬)

中央公論新社 1900円 4-12-003621-9

posted by Kuro : 02:26

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トラックバック時刻: August 14, 2006 10:19 AM

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