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December 01, 2005

横山秀夫『震度0』○●

 初出「小説トリッパー」2002年夏季号〜冬季号、2003年夏季号〜冬季号。
 阪神大震災の朝、N県警本部の警務課長が失踪した。組織内の事情に精通し、信頼も厚い53歳の男はなぜ姿を消したのか。錯綜する思惑と利害、保身と野心。N県警幹部6人の密室劇の幕が開く。
 N県警本部庁舎とは別に幹部公舎、つまり登場人物の住まいの見取り図が示されていることからもわかるように、彼らのお仕事のみならずその私生活までもがつぶさに描かれている。仕事を家庭に持ち込まないなんてとんでもない。それぞれの妻の力関係も夫の職位・階級によって決まるというおそろしい世界なのである。そんな環境のなかで事件は起こる。
 警察の日章を使ったおカタい装幀につい身がまえてしまうが、意外なくらいタッチは軽い。場面の切りかえがスピーディーでおもしろく読んだ。買って損なし。けちをつけるとすれば、例によって女性――本作の場合、官舎に暮らす妻たち――が例によって通りいっぺんなこと。ひとり異彩をはなつエリート警務部長の若妻も、あまりにバカっぽすぎてため息が出る。そろそろキャリア組の女本部長でも出してみたらいかがか。

★★★★☆(2005.8.25 白犬)


 2005.7.30初版。
 いってしまえば、県警幹部の失踪をどう隠蔽するか、というだけの話。だがそこには様々な幹部連中の思惑があり、また幹部の居住する官舎での夫人たちの下世話な好奇心もかかわり、なかなか一筋縄ではいかないのであった。
 タイトルは、たまたまその失踪事件発覚が阪神淡路大震災の朝だったということから。保身と嫉妬、怨恨、出世欲……人間のどろどろしたところと愚かなところを、うんざりするほど(でもどこか滑稽に)書いている。愉快ゆかい。

★★★★(2005.9.10 黒犬)

朝日新聞社 1800円 4-02-250041-7

posted by Kuro : 00:23

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comments

TBありがとうございました。

>キャリア組の女本部長でも出してみたら…
はは、これは面白いですね。逆セクハラとかもアリでしょうか。

投稿者 bibliophage : December 1, 2005 07:41 AM

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