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November 19, 2005
ヒキタクニオ『角』●○
2005.10.25初版。初出「小説宝石」2003年〜2005年の8章分と書き下ろしの最終章。
カバーには見目麗しいOL風のギャルが頭から角をはやしており、見返しにはゲラが印刷されており、一風変わっております。なんなんですかねこの小説は。
主人公麻起子の職業は校閲者。潮光社という出版社で校閲をしている。文芸単行本のゲラを読んで、誤植を発見し、著者の勘違い思い違いを正すのが仕事だ。恋人は同じ出版社の月刊誌記者。わがままな作家や編集者とのたたかいに明け暮れながらも、充実した日々を送っている。そんな麻起子の身体に異変がおこったのは泥酔した翌朝。なんと頭頂部から「つの」が生えてきたのだ。
突拍子もない設定ではじまるが、広義の業界小説でもある。現実離れした部分と地味な校閲という仕事が混沌としており、なんとも収まりが悪い。リアリティなどということをいっても仕方がないが(そもそも角だよ角)、それにしたって類型的にすぎるような。いかにもありがちなノウテンキ編集者とかガンコ作家とか。ならばいっそ、「角」がらみではちゃめちゃにすればよかったのいと思うが、そちらもせいぜいスクープされるのされないのといった事件が起こる程度。うーん、不完全燃焼。会話も不自然だし、唐突な終わり方にも不満が残る。なんで会社を辞める必要があるんだ? なぜ保田は自殺する? 無理矢理終わらせるため? 光野がハゲなのも小内田が女優のファンなのもバレバレで意外性のかけらもないぞ。っていうかこの主人公、あんまり優秀じゃないのでは。なんでチンポとチンチンを統一する必要が?(p.233) p.159にある作中作の冒頭部分なんて、「草原」という語が多すぎるとは思わないのかね麻起ちゃん。校閲替え歌は面白かったけどさ。
校正・校閲をあつかった小説には倉阪鬼一郎の「赤魔」(『田舎の事件』所収)があり、さすがに元校正者だけあって校正・校閲者の実態についてはそちらのほうが(路線はまったく違うとはいえ)本当っぽく思える(倉阪鬼一郎自身の校正者時代の話はエッセイ集『活字狂想曲』にくわしい)。出版社内部の諍いというか葛藤というか真摯であると同時に滑稽でもある(本人たちは大まじめ)やりとりなどは安野モヨコ『働きマン』に負けている。ま、そんな話はどうでもいいか。
それにしてもこの本の校閲担当者はやりにくかっただろうなあ。「アカを入れる」のアカが「赤」と「朱」の2種類が使用されているのはOK? or ママ? いやそれより、勝手に《朱を入れて修正を促す》(p.202)のはまずいのでは?
★★☆(2005.11.18 黒犬)
表題は「つの」。初出「小説宝石」2003年4月〜2005年7月+書き下ろし。
麻起子は出版社の校閲部員。したたかに酒を飲んだ翌朝、鏡を見たらなんと頭のてっぺんに角が生えていた。
見返しに校正ゲラがレイアウトされていることからもわかるように、主人公の「角」事件に、文芸作品の校閲という一般的にはあまり知られていない仕事内容がからんでくるのだが、ひじょうにつまらないことになってしまっている。たとえば、ことあるごとに辞書を引く、また駅貼りのポスターの文句に赤字を入れてしまうなどといったような、校閲者特有の習性におもしろみを感じているのはわかるが、ありきたりすぎ。読者はそんなにバカじゃない。角をめぐる展開もとっちらかっていて楽しめない。もっとどうにかなったような気がする作品。
★★★(2005.11.18 白犬)
光文社 1700円 4-334-92473-5
posted by Kuro : 14:18
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