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April 23, 2005

恩田陸『夜のピクニック』●○

 そんなわけで読んでみましたよ。2004.7.30初版、2005.3.25第16刷。すごいな。初出「小説新潮」2002年11月号から2004年5月号まで隔月掲載。第26回吉川英治文学新人賞受賞作にして第2回本屋大賞受賞作。あ、「本の雑誌」が選ぶ2004年度ベスト10の第1位でもあるのか(私が買ったのの帯はそれしか出ていない)。
 時代はわからない(が、缶コーヒーが100円だった時代だ)。場所もわからない(が、海の近くではあるようだ)。とある高校の年中行事「歩行祭」――修学旅行のかわりに行われ、夜を徹してトータル80キロの道のりを歩き通す。最初の60キロはクラスごとに歩き、深夜、仮眠をとったのちに、残りの20キロを気の合う友人同士やクラブの仲間たちと歩いたり、あるいは到着時間を競って走ったりする。三年生にとっては最後の歩行祭、甲田貴子はある決意を秘めて参加する。
 うまいなあ。『六番目の小夜子』『ネバーランド』のような、青春まっただ中の若者を書くと抜群にうまい。〈ケッ、そんな甘ったるい話、読んでられっかよ〉と毒づいていた、青春からだいぶ遠ざかってしまったおっさんをも引きずり込む。こういう話はストーリーだけじゃダメですね。あらすじだけ聞かされても、それがどうしたの、ってなもんだ。

少女漫画かTVドラマみたいじゃん(p.302)

 という台詞のとおり、なんともありきたりな(現実には珍しいかもしれないが、小説や漫画やドラマの設定としては)話だもんな。
 でも読ませる。ただ高校生がだらだらと歩き続け、その合間にだらだらと話したり頭のなかでああでもないこうでもないと考える、それだけなのに、読ませる。だんだんと登場人物の顔がはっきりしてくる。西脇融と戸田忍という男子ふたり、貴子と遊佐美和子という女子ふたりの主役たちはもちろんだが、お調子者の男子、狙った男子に積極的にアタックをかけてくる女子、ああいたよなあこういうヤツと思いださせる。今にしてみれば他愛のない、くだらないことに熱中していた若かりし頃が、赤面するような記憶とともによみがえってくる。
 やられた。
 参りました。
 最後の30ページ、どうにもこうにも参った。
 説明するのがむずかしいのだけれど(というより、あんまり説明したくないんだな)、読んで損はない一冊です。できれば夜中に読み始めて、朝日のなかで読み終わるといいな。目がしょぼしょぼするけどさ。
 若い人にも人気のある恩田陸だけれど、これは高校を卒業して最低でも10年以上経ってから読むべき本だと思う。わはは。

★★★★★(2005.4.23 黒犬)


『本の雑誌』が選ぶ2004年ベスト10第1位にして第26回吉川英治文学新人受賞作。さらに全国の書店員が選んだ「いちばん売りたい本」2005年本屋大賞でも第1位を獲得したというすごい本。初出「小説新潮」2002年11月号〜2004年5月号まで隔月連載。
 夜を徹して80キロを歩き通す毎年恒例のイベント「北高鍛錬歩行祭」。学校指定の白ジャージ姿の生徒たちは、親しいクラスメートと冗談を言い合ったり、打ち明け話をしたりしながら一夜を過ごす。
 三年生の甲田貴子にとっては最後の歩行祭。彼女はじぶんだけの小さな秘密の賭けを胸に歩き出した。

 80キロというと、東海道五十三次だと日本橋から小田原付近まで。「鍛錬」というだけのことはある。
 不良とかひきこもりだとか、はぐれたようなティーンエイジャーの話ばかり読んでいるせいか、ちゃんと学校行事に参加しているというだけで新しい感じがしてしまう。時代的には少し昔のにおいがするが、著者が1964年生まれだから、逆算してみてそこらへんかなという気もする。もちろんポケベルも携帯もまだない。コミュニケーションの手段はいまよりずっと少なく、自分なりに工夫して数少ないチャンスをいかすしかないわけです。当然、微妙な駆け引きが必要になる。もどかしくも懐かしい。いまの高校生は本作を読んでどう感じるだろうか。
 三冠はだてじゃない。読んで損なし保証。

★★★★☆(2005.4.11 白犬)

新潮社 1600円 4-10-397105-3

posted by Kuro : 02:18

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comments

黒犬さん☆はじめまして、TBありがとうございます。

もの凄い事件が起きるワケじゃないし、とんでもない人が出てくるワケじゃないのに、こんなに引き込まれていくのは何故なんでしょう?

「夜ピク」は恩田作品の中で、わたしにとって一番心に残る作品でした。

投稿者 Roko : April 23, 2005 09:47 AM

はじめまして。ランキングからお邪魔しました。
恩田陸さんの『夜のピクニック』、おもしろそうですね。
第2回本屋大賞を受賞したのをきっかけに『Q&A』を読んでいるところなので、
黒犬さんの記事を読んでますます興味を持ちました。
ぜひこの作品も読みたいと思います。

投稿者 ましろ : April 23, 2005 06:34 PM

Rokoさま。
コメントとトラックバックをありがとうございます。
読み始めるまでは期待していなかったのですが、進むにつれてだんだんのめりこみましたねえ。無駄に一生懸命だった(笑)若き日のことを思い出させるからでしょうか……。


ましろさま。
コメントどうもありがとうございます。
『Q&A』もなかなか不気味で面白かったです。それとはまたずいぶん雰囲気が違う作品ですが(なにしろいろんな引き出しのある作家ですからね)、きっと『夜のピクニック』も楽しめると思いますよ。

投稿者 黒犬 : April 24, 2005 02:27 PM

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