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October 01, 2007

古川日出男『ハル、ハル、ハル』○

 初出「文藝」。2006年『LOVE』で第19回三島由紀夫賞を受賞した古川日出男の作品集。母に捨てられた兄弟の耐乏生活の描写に始まる表題作「ハル、ハル、ハル」ほか、三島賞受賞直後の異様な精神状態のなかで書いたという「スローモーション」、そして「8ドッグス」の3編を収録。本書は犬吠埼の一頭の犬に捧げられている。
 これはもう文章というより詩であろう。音楽、と言ってもいい。たとえばこんなかんじ。

 ママ。
 ママ。ママ。ママ。ママ。ママの顔は忘れちゃったよ。
 ねえママ? それでいいわけ? 一万円札を十枚でいいわけ? どんどん減るよ。おれはわかったんだけどこんなんじゃ三ヶ月と持たないよ。全然まるっきり実際に持ちそうにないんだって。おれたち。ママの息子のおれたち。それで何これ? テーブルに積まれてた十枚のこれ。 元気でねってどういう意味?
 ねえママ?
 世の中甘くみてるンじゃねえよ。ママ。ママ。ママ。ママ。ママの顔は忘れちゃったよ。いいかげん忘れちゃったよ。あんたの顔。(「ハル、ハル、ハル」p.12)

「ハル、ハル、ハル」の冒頭で、「この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ」と作者は言っているのだが、「この物語はきみが読んできた“僕の”全部の物語の続編だ」としたほうがわかりやすいかもしれない。最終ページに挑戦的なメッセージを置いているから、ここからまた、なにか始まるのだろう。要観察。次作期待。

★★★★(2007.8.25 白犬)

河出書房新社 1400円 978-4-309-01828-7


posted by Kuro : 00:55

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