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September 30, 2007

西岡研介『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』○

 1994年6月、JR東日本が『週刊文春』の連載記事に対し中吊り広告の掲出とキヨスクでの販売を拒否した“言論弾圧事件”を覚えておいでだろうか。以来、マスコミタブーとなった「JR革マル派問題」に敢えて斬り込み、雑誌連載をものした顛末をまとめた本。著者は1967年生まれ。神戸新聞社、噂の真相などを経て2001年より週刊文春記者。2006年4月に本件がらみで週刊現代記者に。同誌に2006年7月から半年間に渡って掲載された「テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」は、2007年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞している。
 連載中どうしても熱心に読めなかったのは、男性週刊誌の記事に対するわたしの偏見、いわば“うさんくささ”のようなもののせいだったように思う。りっぱにまとめてくださって本当によかった。たいへんよくわかりました。
 革マル派(=日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)という思想集団に支配されたJR東日本のおそるべき実態と、その中心存在である元JR東労組会長・松崎明の組織私物化を暴く。松崎明は1936年埼玉県生まれ、現在71歳のジイサンなのだが、かつては誇り高い労働運動家だった男が、いまや国内外に別荘持ってたりするブルジョアぶり。なんだエラソーなこと言って、けっきょく金じゃねえかと呆れる。暴走する革マル派対策としてJR東日本の監査役に天下った「公安捜査の神様」とまで言われたジイサンも、革マル派構成員の皆さんの緻密で地道な活動により、あっさり転向したというからおそれいる。こうした加齢臭芬々たる負のスパイラルは、めでたい一般市民であるわたしたちが知らないだけで、いまでも大なり小なり歴然とあるのだし、同じことがマスコミについても言えよう。
 著者は連載中、記事内容に批判的な同業者から「なぜ今さら『JR革マル派問題』を取り上げる必要があるのか」と言われたという。それについての答えを著者はエピローグで熱く語っている。一部引く。

 先輩「ジャーナリスト」の方々よ。もうそろそろ「権力vs.反権力」といった、硬直したものの見方で、世界を語ることから脱したほうがいいのではないか。少なくとも私は、あなた方が好む「権力=悪、反権力=善」といった単純な二元論からは一足先に、オサラバさせていただく。本書は、その「決別宣言」である。(「エピローグ」p.345)

 なんとすがすがしい。こういう若いジャーナリストがいることに希望をかんじる。世の中、真実というものは存在しないのかもしれないけど、少なくともわたしは本書によってJRに関する新聞記事の読み方をかえました。

★★★★(2007.8.30 白犬)

講談社 1600円 978-4-06-214004-1

posted by Kuro : 15:50

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