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September 29, 2007

沼田まほかる『猫鳴り』○

 初出「小説推理」2007年1月号〜6月号。2004年に『九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞。作品そのものより「50代後半のデビュー」のほうで評判になった沼田まほかるの第三作。 デビュー作『九月が永遠に続けば』はホラーサスペンスらしい作品だった。第二作『彼女がその名を知らない鳥たち』は、まことにやるせない愛の形を描いた、それでもサスペンスだった。で、本作。これはもうホラーでもサスペンスでもなく「猫小説」であろう。ほかに何と言ったらいいのかわからない。
 物語は結婚17年で思いがけなく授かった子供を亡くした夫婦と、その住まいに迷いこんだあわれな子猫との生活にはじまり、脇役の少女がつなぐ形で第二部がある。少女は第二部でも脇役であるから、まほかる作品を追っている読者としてはひねりを感じるわけです。で、わくわくしながら突入した第三部。描かれているのは老人と猫の生活。老人は第一部の夫のその後であり、夫婦の住まいに迷い込み、紆余曲折を経てモンと名付けられた猫も、とうぜんのことながら高齢である。老人は十二歳年下の妻に先立たれ、脇役の少女も成長して結婚し疎遠になってしまった。文中の表現を借りれば、「じじいとじじいの、老いさらばえていくことのほかに、これといって語るにたる出来事も身のまわりに起きない」わびしい生活である。この展開には意表を突かれたし、著者がいったい何を書きたかったのかよくわからない。しかしながらこの第三章は、動物好きの読者なら、とりわけ猫と付き合ったことのある読者なら涙なくしては読めないだろう。それならそうと先に言ってくれよ。
 著者はデビュー時に「年もとって楽になっていたから小説も書けた」と語っているが、作品の方向性に関してもこだわりがないのかもしれない。要観察。

★★★★(2007.8.29 白犬)

双葉社 1400円 978-4-575-23589-0

posted by Kuro : 15:35

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