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February 10, 2007

沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』○

九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞した58歳の新人、沼田まほかるの二作目。書き下ろし511枚。
 恋人に裏切られ、心身ともにぼろぼろになった北原十和子。勤めを辞め、職を転々とする十和子の前に現れたのは、かつての恋人には似ても似つかぬ野卑な男、佐野陣治だった。はじめのうちは拒絶していた十和子だが、いつしか根負けするような形で関係をもち、同居するようになる。いっさい家事をせず、身なりにもかまず、マンションの部屋にこもりっきりで別れた恋人への思いを引きずる十和子に対し、下僕のごとくふるまう陣治。そんな生活のなか、十和子はまた別の男と付き合い始める。
 さして目新しくもないテーマを人物造形の巧みさとディテールで読ませる。身勝手なだめ女にかしづく中年男の姿は果てしなく滑稽で、読んでいるこちらのほうまでサディスティックな気分になるほどだ。なぜそれほどまでにして尽くすのか。ストーリーは十和子が陣治の部屋でかつての恋人から贈られたダイヤのピアスを見つけたことでようやくホラー・サスペンスらしい展開をみせる。
 帯などに「純愛サスペンス」とあるが、この結末に純愛という言葉はあまりにも似つかわしくない。ただただ、やるせないだけである。
 デビュー作『九月が永遠に続けば』に引き続き、情け容赦のない書きっぷりは健在。ますます磨きがかかっているようにも思える。次作期待。

★★★★(2006.11.20 白犬)

幻冬舎 1600円 4-344-01239-9

posted by Kuro : 22:44

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