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December 20, 2006

角田光代『夜をゆく飛行機』○

「婦人公論」2004年8月22日号〜2005年11月7日号掲載。2005年に『対岸の彼女』で第132回直木賞を受賞した角田光代の受賞後初の長篇。
 商店街で昔ながらの酒店をいとなむ谷島家。両親と四姉妹の六人家族で、物語は末っ子、里々子の視点で綴られる。現代の話であるから四人きょうだいというのはめずらしい。おそらく男の子を期待して産み続けたのだと思われる。里々子が生まれる前に、母方のバアサンが鯉のぼりを買っていたことからもそうと知れる。じつは谷島家にはもうひとり、妊娠中の事故で亡くなった子がいる。この生まれなかった子に里々子は「ぴょん吉」と名付け、ひとり物思いにふけるときのよすがとしている。
 谷島家にとって、描かれている約一年間は動乱の年とでもいうべき年で、それは三女寿子が誰にも内緒で書いた小説で新人賞を受賞したことに始まる。小説は自分の家族の日常生活を書き綴ったもので、反対票を投じた選考委員の選評に、里々子が深く納得するシーンが何度も読み返したくなるくらい可笑しい。

「『私』から見える、安っぽく奥行きのない世界をだらだらと書いているだけ。私の目線をたどりその狭苦しい世界を描き出すことを私小説だと勘違いしているのではないか。私にはただただ退屈な、小学生の作文である。あるいはそれ以下である」(p.31)

 商店街を脅かす大型スーパーの出店、叔母の死、長女有子夫婦の不仲、そして里々子の受験と恋など、一家にまつわる出来事は当事者たちが真剣であればあるほど滑稽で、懐かしい。「やっぱり家族っていいね」だとか言いながら緑茶の二番煎じを飲みたくなるようなクッサイ話ではないことを書き添えておこう。まったく、どうしようもなく家族は家族、なのである。1500円はお買い得。

★★★★☆(2006.8.3 白犬)

中央公論新社 1500円 4-12-003752-5

posted by Kuro : 00:06

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