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September 23, 2006

久坂部羊『無痛』○

 2003年に『廃用身』でデビュー、04年発表の第2作『破裂』が10万部超のベストセラーとなった現役医師、久坂部羊の医療ミステリー。書き下ろし891枚。
 神戸市灘区の住宅街で、夫婦と二人の幼い子供の四人家族が惨殺されるという事件が起きる。被害者の解剖を担当した医師は犯人が心神喪失者であることを示唆。兵庫県警はただちに70人態勢で捜査あたるが、凶器や遺留品、靴跡などの有力な証拠物がありながら犯人像を絞り込むことができずにいた。一方そのころ、精神障害児施設に勤務する臨床心理士の高島菜見子は、自閉症の少女から「灘区の事件の犯人は自分」だと告げられる。悩んだ菜見子は、以前、通り魔から救ってくれた為頼医師に相談をもちかける。彼には患者を見ただけで病気がわかるという特殊な能力があった。
 いやあ、これはすごい。凄惨な殺人事件を中軸に描かれる二人の異能の医師、臨床心理士・菜見子とその家庭の事情、携帯のメールでしか「会話」をしない自閉症の少女、先天的に「痛み」の感覚を持たない男、そして心神喪失者の行為は罰しないとする刑法39条。この重層的な物語を「たったの」891枚でまとめ上げているということが信じられない。くわえて現役医師だけに手術シーンなどは詳細をきわめ、読み応え満点である。「痛くてキモチわるい」という感想もあるようだから、そういうの苦手な人は飛ばして読んだほうがいいだろう。1800円はまったくもってお買い得。
 付記。本作でぜひ注目したいただきたいのが、食事のシーンと登場人物の服装である。おやっと思うくらいよく書き込まれている。日本の(とくに男性作家の)エンターテインメント作品はいまだに料理やファッション方面に手薄であるように思う。とくに女性登場人物の服装についてはもう少し工夫がほしい。いい女は脱がなくてもすごいんです。以下、本作より引用。

貴糸子はそのままロビーには戻らず、悠然と高級ブランドのウィンドーショッピングをした。髪を前下がりボブにして、黒革のレディスハンチングをかぶり、アンナモリーナのノースリーブワンピースに、毛皮をあしらったジャケット風カーディガンを合わせている。香水はK・デ・クリッツァ。(p.390)

 ちょとキメすぎて嫌味なくらいの装いだが、この数行によって、後半いきなり登場する彼女がどういう人物なのか、がぜん興味がわくのである。

★★★★☆(2006.8.4 白犬)

幻冬舎 1800円 4-344-01158-9

posted by Kuro : 15:35

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