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February 20, 2005

久坂部羊『破裂』●

 2004.11.25初版、2004.12.20第4刷。書き下ろし医学サスペンス1143枚、2段組で約450ページ。
 ということで、いかにも幻冬舎って感じで強力にプッシュ。かなり大きく宣伝もされています。帯には、

医者は、
三人殺して初めて、
一人前になる。

 というショッキングなキャッチコピー(これにつられて買ってしまった)と、佳多山大地、中条省平、香山二三郎の強力な推薦文(《迫真の面白さに〈小説読み〉の三賢人が、こぞって絶讃!!》と表4にある。三賢人かあ……)。
 著者は最近、朝日新聞の「ひと」欄にも登場していましたが(05/2/15)、現役の医師で、本書が2作目。
 新聞社を辞めてノンフィクションライターをめざす松野は、自分自身がガンだと誤診されたことがきっかけで、医療ミスをテーマに作品を仕上げることをめざしている。大学病院の麻酔医江崎の協力を得て、現役医師たちの《痛恨の症例》を着々とまとめていく。一方で江崎は、自分の父親は心臓外科の助教授香村が手術に失敗したせいで亡くなったのではという相談を、患者の遺族から受ける。調査をすすめるうちに、江崎の病院内での立場はだんだん悪くなっていく。香村は心臓外科教授をめざして研究を進めてきたエースだが、そこに厚生労働省から意外なオファーを受ける――。
平成版「白い巨塔」》(佳多山大地)とも評されているように、医療ミスとその裁判が大きな位置を占めるが、実際には厚労省の主任企画官佐久間の、不気味な計画のほうがメインテーマといえる。
 まあこれだけ長い話を説明していても仕方がない。全体的にどうだったかというと……ダメだった、俺には。
 テーマはおもしろい。高齢化社会がどんどん進んでいく日本。それをどう解決するか。ひとびとが内心思っていて、しかも決して口には出せない(なおかつ“自分だけは例外”だと思っている)方法。それを実現しようとする人間と、それに反発する人間。おごりたかぶり自分の立場を守ることに汲々とする医療関係者と、それではいかんと立ち上がる医療関係者。興味深い問題をいろいろとはらんでいる。
 が、つまらない。文章がダメ。視点があちこちふらつく(同じ場面内で、です)から、どうもぎくしゃくしていたり、会話が不自然だったり……。

「佐久間は複合化キーを入力して」(p.125)

 みたいな単純誤植はご愛嬌ですが(暗号化に対応するのは復号化)。
 で、人物造形にも首を傾げてしまうところがけっこうあったし。『白い巨塔』っていうより、なんだか安物の病院ドラマを見せられているようだったな。陳腐なんだよなあ、出世こそわが人生でプライド満点な助教授、図々しい(しかし本人はそれに気づいていない)ノンフィクションライター(でも間抜け)、トラウマをかかえる正義感にあふれる医師、それを支えるよき理解者としての看護師、かよわいヒロイン?(医療裁判の原告)などなど。誰にも感情移入できないというのも(この長さだと)困ったもんだ。もうちょっとなんとかならなかったもんかなあ。

★★(2005.2.17 黒犬)


幻冬舎 1800円 4-344-00698-4

posted by Kuro : 14:59

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