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August 26, 2006

絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』●○

 2006.5.10初版。単行本は2004年2月。映画化されたということで文庫化を早めたらしい。絲山秋子の文學界新人賞受賞作である表題作と、「第七障害」の2篇を収録。
 なんとなくこの作家にはまりつつある。最初に『逃亡くそたわけ』を読むまでは、どうも偏見があった。精神病ネタだけの作家だと思っていた(まあそれは今でも思わないわけではないが)。しかし『逃亡……』は一級のエンタテインメントだった。芥川賞をとった「沖で待つ」は切なかった。「勤労感謝の日」は笑えた。
 で、デビュー作である。
 なんだかぐだぐだした話で、つかみどころがない。駄目っぽい女が駄目なイトコをひきとり、駄目な男どもと交流する。全体的にダメダメ感が漂うが、不快ではない。いやリアルでこんな連中とつきあいたいとは思わないが。
 しかしながら、じつは併録されている「第七障害」のほうが私は好きだ。ツボだ。単に動物モノに弱いだけかもしれないけど。馬術大会中に転倒し、馬を安楽死させることになってしまった女の話だ。乗馬をやっている著者なだけあって臨場感がある。
 馬を失い、自信を失い、男を捨て、住んでいた場所を捨て、そこからどう立ち上がるのか。立ち上がれるのか。
 死なせた馬が夢の中で語りかけてくるシーン(p.117)はちょっといい。ほんの数行なんだけど、いい。

★★★★(2006.7.10 黒犬)


 直感で住むことにした蒲田の街。引っ越しの朝、男にふられた。だから、だめ男はいやだ。だめ男ばかり好きになる自分が嫌だ――大学の同窓にしてEDの都議会議員、出会い系サイトで知り合った痴漢のkさん、自殺未遂のいとこ、鬱病のヤクザ。勤めを辞め画家になった女と男たちの日々をキング・クリムゾンをBGMに語る絲山秋子のデビュー作。第96回文學界新人賞受賞作にして第129回芥川賞候補作。『やわらかい生活』というタイトルで映画化。主演・寺島しのぶ、豊川悦司。
 それぞれに面倒くさい事情を抱えた人々の交流を描く。主人公・橘優子の心はいらいらするくらい広い。相手のダメさかげんをじゅうぶん見透かしたうえで許し、与え、そして奪う。恋人でも友達でもない。そんないわく言い難い関係を簡潔な文章で表現しきっている。「十年にひとりの逸材」という、著者に対する中途半端なほめ言葉にもなんとなく納得。愛馬の死から逃れられないでいる女を描く、併録の「第七障害」とともに390円はまったくもってお買い得。
 いやしかし。巻末の書店員とやらの解説はもっとどうにかならなかったのか。「わたしの小説が一番好きなあなたに書いてもらいたい」って、ほんとに言ったのか絲山秋子。

★★★★☆(2006.8.10 白犬)

文藝春秋/文春文庫 390円 4-16-771401-9

posted by Kuro : 15:34

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