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July 08, 2005

絲山秋子『逃亡くそたわけ』○

 くそたわけ。すばらしい言葉である。なにより強めに発音したときのキレがよい。むしゃくしゃするとき、大きな声で「たわけ!」だけでもいいから言ってみて。とてもすっきりします。
 さて本書。04年に『袋小路の男』で川端康成文学賞を受賞した著者の初の書き下ろし小説。
 ね、一緒に逃げよう――ある日、あたしは患者仲間のなごやんを誘って福岡の精神病院を逃げ出した。銀行で金を下ろし、なごやんのマンションで身支度をしたあたしたちは、なごやんのルーチェに乗って国道386に入った。それが分岐点だった。
 犯罪者でこそないが、二人とも薬が必要な病人である。そんな二人が行き当たりばったりのドライブをするわけだから、まずその状況の危うさに引き込まれる。このストーリーの成功のかぎは、車という密室を舞台装置に選んだところにある。
 博多生まれで博多育ちの花ちゃんと、名古屋人のくせに東京かぶれで標準語しか話さないなごやんのやりとりはこんなかんじ。

「ねえ、前から聞きたかったったい。なして名古屋弁で喋らんと?」
「『人間の精神は言語によって規定される』って、知らない? 俺は自分の精神を名古屋弁に規定されたくないんだよ」
「なんそれ」
「ウィトゲンシュタイン以降の常識だよ」
「誰ねそれ」(p.50-51)

 博多から薩摩半島の指宿まで約1200キロ。車好きの著者自身が実際に走って取材したというコースは巻末の地図にくわしい。買って損なし保証。おすすめ。

★★★★☆(2005.6.10 白犬)

中央公論新社 1300円 4-12-003614-6

posted by Kuro : 03:14

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comments

トラックバック、ありがとうございました。
“くそたわけ”私も素晴らしい言葉だと思います。
花ちゃんとなごやんのやり取りも好きです。
絲山さんの小説を読むと、方言を大事にしたくなってきます。
“はんでめためたごっちょ”なんて…
意味もわからないのに知っている我が故郷の方言です。
私からも、TBさせてくださいませ。

投稿者 ましろ : July 8, 2005 06:10 PM

はじめまして。「あざやかな瞬間」経由でやってきました。
トラックバックさせていただきました。
私もなごやんの「言語が精神を規定する」説、興味深く読みました。でもなごやんは気にしすぎや、とも思いますが。
また寄らせてもらいますね。今後ともよろしくお願いします。

投稿者 ざれこ : July 16, 2005 12:48 AM

すいません、さらにトラックバックしちまいました。ひとつ消しておいてください・・お手数かけてすいません。

投稿者 ざれこ : August 29, 2005 02:21 AM

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