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July 09, 2005

オードリー・ニッフェネガー『タイムトラベラーズ・ワイフ』(上・下)○

 クレアが初めてヘンリーと出会ったのは6歳のときだった。未来からやって来たヘンリーは36歳。ヘンリーは自分の意志とは無関係にタイムトラベルしてしまう「時間の流浪者」だった。クレアはさまざまな時代からやってくるヘンリーと152回も会い続け、成長とともに愛を育んで行く。 そして二十歳になったクレアはついに現在の時の中で28歳のヘンリーと出会う。
 クレアがヘンリーに出会った西暦1991年から2053年までの物語。二人のうちどちらかが折々のエピソードを語り継いで行く。いわばタイムトラベル仕立ての恋愛小説だが、畑違いの小川洋子かなんか引っ張り出しちゃって、帯などに「切ない」とか「究極のラブストーリー」だとか刷り込むなどして、やたら感動好きな人々の懐から合計3200円をひねり出す作戦。字面通りの内容を期待して買った人はがっかりするにちがいない。
 ケン・グリムウッドの名作『リプレイ』でもそうだが、どんなに特殊なことでも、それが何十年も続くとなれば、当事者にとっては日常である。無事でありさえすれば、いやでも目の前に長々と横たわる生活そのものである。
 やがて二人は結婚するが、妻のクレアはこんなことを思ったりする。

 これは秘密だ。ときどき、わたしはヘンリーがいなくなってくれるとうれしい。ときには一人でいることが楽しいのだ。夜遅くに家じゅうを歩き回り、しゃべらず、触れず、ただ歩いたり、すわったり、お風呂に入ったりする喜びに震えている。ときにはリビングの床に寝そべって、フリートウッド・マック、バングルズ、ザ・ビー・フィフティーツ−ズ、イーグルスといったヘンリーには耐えられないバンドを聴く。(中略)
 あるときミシガンに行って戻ってきたら、ヘンリーはまだいなかったので、どこに行ったかをとうとう彼に話さなかったこともある。(下巻 p.178)

 なにしろ、いつ戻ってくるのか、戻ってきてもまたいついなくなるのかわからない夫だ。うっとうしく思わないほうがおかしい。待つほうにしてみれば、タイムトラベラーも単身赴任中のサラリーマンも似たようなものだろう。
 読み始めてすぐに上下巻のボリュームに改めてひるんだが、気がついたら下巻を手に取っていた。寝苦しい夏の夜のなぐさめに。長旅のおともに。

★★★★☆(2005.6.15 白犬)

"The Time Traveler's Wife" by Audrey Niffenegger 羽田詩津子・訳 ランダムハウス講談社
 上・下各1600円 4-270-00051-14-270-00052-X

posted by Kuro : 13:58

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