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April 20, 2006

伊坂幸太郎『終末のフール』○●

 初出「小説すばる」2004年2月号〜2005年11月号まで3月おきに掲載。
 人類に残された時間はあと3年――小惑星が衝突して地球は壊滅的な状態に陥ると発表されてからの世界を描く連作小説集。といっても、地球上のすべての核保有国からミサイルを集めて打ち上げるだとか、そういう大風呂敷な話ではない。暴動も略奪も一段落した5年後の、ある地方都市で暮らす一般人に光を当てている。まさに夢も希望もなくした人々は、命に関わる決断を迫られたり、過去をふり返ったり内省したりを繰り返しながらもなお、粛々と日々の生活を営んでいる。ああ、こうしたものだろうなと思う。著者本人も、

『死とはなにか』ということは僕はまだ、よくわからないから、『死とはこういうものです』というものは書けないんですよね。(s-woman.net伊坂幸太郎スペシャルインタビューより)

 なんて、冬枯れの芝生のうえでのんびりと述べておられる。
魔王』(講談社刊)や『砂漠』(実業之日本社刊)もそうだが、ときに脱力をもよおすほどの「つくらなさ」みたいなものが伊坂作品の魅力なのかもしれない。
「馬鹿」が口癖の父親と家族の葛藤を描く表題作「終末のフール」と、キックボクシングジムを舞台とする「鋼鉄のウール」がとくに印象に残った。最終話「深海のポール」はお見事のひと言につきる。次作期待。

★★★★★(2006.4.1 白犬)


 これは……すばらしい。いや、そんなに力入れなくてもいいんだけどさ。でも、いい。
 2006.3.30初版。初出「小説すばる」2004年2、5、8、11月号、2005年2、5、8、11月号。ええ、きっちり几帳面に、惑星直列のように定期的に掲載された8編の物語。舞台は仙台。ときは、たぶんそんなに遠くない未来。小惑星が地球に衝突する、誰も逃げるすべはない――そんなことが発表され、パニックになり、しかしパニックも継続するのはなかなか大変なもので、なんとなく落ち着いてしまった頃。あと3年で人類は滅亡する、はず。でも日々の生活はつづく。
 この着想がたまらない。
 装幀もいい。カバーには段ボールでつくられた「櫓」。水色のタイトル文字は梱包テープを模しているのだろう。
 こまかいことは言わない。読むべき一冊だ。願わくばそろそろ直木賞を。その価値はある。そのことに選考委員が気づくかどうかわからんが。いや、まあ別にいいんだ。わかる人にだけわかれば。

「小惑星が落ちようと落ちまいとさ、世界は終わるよ」(「天体のヨール」p.198)

 こういう上質の「物語」をつくりだす作家と同時代に生きていることを幸運に思う。

★★★★★(2006.4.5 黒犬)

集英社 1400円 4-08-774803-0

posted by Kuro : 22:42

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