« 重松清『その日のまえに』○● | Blog Top | 小野法師丸『コラム息切れ』○ »

December 19, 2005

重松清『きみの友だち』○●

 初出「小説新潮」。単行本化にあたり一部改題・改稿。小学4年生のときに交通事故に遭い、松葉杖に頼る生活を余儀なくされた恵美を軸に語られる、「友だち」にまつわる物語10篇を収録。
 子供の世間はおとなが想像する以上に厳しい。どんなにつらくて悲しくても、じぶんの力だけでは学校というしばりの外に出ることはできない。永遠とも思える時間のなかでの「友だち」の存在は大きい。そして、その友だちに孤独ということを教わりもする。誰にも子供時代はある。だからこそ、本書で語られる身に覚えのあるようなエピソードにぐっときてしまいもするのだろうが、やたら意志的な子供たちにうそくささを感じてしまい、すっきりと読み通すことができなかった。わたしは本書の読者には向かないようです。

★★★☆(2005.11.18 白犬)


 2005.10.20初版。初出「小説新潮」2004年7月号、9月号、11月号、05年1月号〜7月号。帯には「長編」とあるが、連作短篇集に近いよなあ。と思っていたが読み終えてみるとこれはやはり長篇ですね。
その日のまえに』のテーマが「死」だとすると、この本のテーマは「友だち」。しかしここでも「死」はかかわってくる。
 死をテーマにするのって、ある意味で簡単なわけです。セ×チューに限らず、誰か好きな人が死にました悲しいです、なんて話は非常に簡単で効果的だったりします。全米が泣いた、みたいなもんでね。いい大人がそんなんで泣いてどうする。
 ただ、『その日のまえに』の感想にも少し書いたことだが、若年層に向けて死を取り上げた小説を提供するのは、意味があるのかもな、と思う。ガキ同士の諍いで人死にが出るような世の中だから。命の大切さを教えるったって、その教えるべき大人が子供を殺したりもするわけで。それに、教わったから殺しません殴りませんいじめません、ってもんでもないだろうし。
 おそらく彼らを大人が教育しようとしても無理。彼ら自身が学ばない限り、変わることはない。そのきっかけとしては小説というのが一番適したメディアであると、これはもう私の信仰になってるかもしれません。
 じゃあ命と友情について、この本を読ませれば万事解決となるかというとそんなことは絶対にないのですが。むしろここに出てくる主人公恵美の〈友情〉に対する考え方や由美ちゃんとの〈友情〉は特異なものだと思うんで参考にはならないだろう。

 まあそんなことはどうでもよい。
 この連作短篇集――に見せかけた長篇小説――はなかなかうまくできている。中心となるのは姉・恵美(交通事故にあって左足が不自由。おそらく一生松葉杖を手放せない)と弟・文彦(運動もできて人望もあつい。が、自信過剰なところも)。で、姉の周辺と、弟の周辺が交互に出てくる。時代も(姉の中学時代と弟の中学時代はずれてますからね。弟の中学時代に出てくる姉はもう大学生だったりする。でも次の章では姉の中学時代が出てきたりする)動く。姉と弟が中心といっても、そのまわりの「友だち」たちにスポットが当てられて、彼ら彼女らの心象風景というのも語られる。
 主人公が姉ひとりだったら、気に入らない人物については「なにこいつ」と主人公の意識に同調しているだけだったはずが、多面的に描かれるので、みんなそれぞれ大変だよね、という具合に同情できたりするわけである。
 反対に、第三者の視点のみでこの姉を書けば、「なにこの偏屈野郎」「単なる変わり者かよ」「ひがんじゃってさ」みたいに思っちゃうかもしれない。それはそれで気の毒だ。
 大人でもそうだけど、子供の世界にもいろいろあり、表面をみただけではわからない、人によってそれぞれ事情が違う、ということがあるわけです。
 こんなヤツいねえよと思わないでもないし(弟とその「親友」とかね。いや、いたことはいたかな)、どうもテクニックに走りすぎているきらいもある。最初から通される二人称の語りというのも、どうもしっくりこない。
 けれど、最後まで読めばわかる。そうするしかなかったのだと。
 うーん、なんか書きづらいな。よかったら読んでみてください。悔しいがちょっと泣けた。

★★★★☆(2005.12.10 黒犬)

新潮社 1600円 4-10-407506-X

posted by Kuro : 01:54

trackbacks

このエントリーのトラックバックURL:
http://dakendo.s26.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/151

このリストは、次のエントリーを参照しています: 重松清『きみの友だち』○●:

» きみの友だち from ろばみみ、さるみみ、mimiのみみ
「きみの友だち」 重松清 交通事故に遭い、松葉杖なしでは歩けなくなった恵美を中心に、弟やその周りの人々も含めた友だちを描いた連作短編集。 「あいあい傘」 「ね... [Read more...]

トラックバック時刻: December 19, 2005 09:36 PM

» 「きみの友だち」重松清 from 雑板屋
【たくさんの微笑ましいお話】 またしてもヤたれた。 重松さんの作品に・・・。 とてもとても微笑ましいたくさんのお話に・・・。 自分の幼い頃... [Read more...]

トラックバック時刻: July 26, 2006 07:32 AM

» ★ きみの友だち 重松清 from 本を読んだら・・・by ゆうき
きみの友だち 重松 清 新潮社 2005-10-20 交通事故で足が不自由になったことをきっかけに、「みんな」と「友だち」について考えるようになった... [Read more...]

トラックバック時刻: July 28, 2006 02:02 AM

» 『きみの友だち』 重松 清 新潮社 from みかんのReading Diary♪
きみの友だち 小学校からの下校時、あることから交通事故にあい主人公は松葉杖を使う生活となってしまった。この事故で友だちとの友情関係のバランスの悪さにつ... [Read more...]

トラックバック時刻: September 30, 2006 10:54 AM

» きみの友だち 重松清 from 粋な提案
装画・挿画は木内達朗。装幀は新潮社装幀室。 1991年「ビフォア・ラン」でデビュー。99年「ナイフ」で坪田譲治文学賞、「エイジ」で山本周五郎賞を受賞。20... [Read more...]

トラックバック時刻: November 16, 2006 03:34 AM

» きみの友だち 重松清 from "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!
きみの友だち この本は 「じゃじゃままブックレビュー」のじゃじゃままさん にオススメいただきました。 ありがとうございました。 ■やぎっちょ書... [Read more...]

トラックバック時刻: December 26, 2006 05:20 PM

» きみの友だち<重松清>−(本:2007年17冊目)− from デコ親父はいつも減量中
新潮社 (2005/10/20) ISBN-13: 978-4104075065 評価:90点 相変わらずうまい重松清。 わかっていても重松... [Read more...]

トラックバック時刻: February 11, 2007 02:13 AM

comments

コメントをどうぞ。




保存しますか?