重松清(しげまつ・きよし)


【長篇】
哀愁的東京
熱球
疾走
流星ワゴン
定年ゴジラ
四十回のまばたき
エイジ

【短篇集】
なぎさの媚薬
卒業
愛妻日記
送り火
カカシの夏休み
ビタミンF
ナイフ

【エッセイ・NF】



なぎさの媚薬 敦夫の青春/研介の青春  4-09-379691-2
小学館 1500円


 2004.7.20 初版。初出「週刊ポスト」03.11.7〜04.5.21。
 ぶっちゃけていえば、おじさん週刊誌に連載されたポルノ小説。ぶっちゃけなくてもそうか。「なぎさ」という名前の《まぼろしの娼婦》が主人公を過去にいざない、そのころには実現できなかった性の冒険をさせてくれる、という話。
 『愛妻日記』で官能小説にめざめてしまった重松清が、その世界をもっと追究してる……んでしょうけど、あまり感心しない。そこらのポルノよりは文章もしっかりしてるし、性的ファンタジーというアイディアも(即物的なポルノよりは)面白いんだけど。

★★☆(2004.7.20 黒犬)


卒業  4-10-407505-1
新潮社 1600円


 2004.2.20 初版。初出「小説新潮」02年12月号、03年4月号、8月号、12月号。
 《親が死ぬ話》4篇収録。
 語り手はいずれも40前後の男。この人のこのパターン(同世代の哀愁、みたいな?)にもちょっと飽きてきた。少年と同世代男しか書けないのか?
 そして、まあ同じテーマで書いたのだから当然とはいえ、いずれも親子の問題に収束していくもんだから辟易。おなかいっぱいな読後感になってしまう。
 そうはいっても重松清だから下手ではないし、こちらの涙腺を刺激するところもある。こちらが慣れてしまっているというだけのこと。完成度はそれなりに高いと思う。

★★★☆(2004.2.29 黒犬)



 初出「小説新潮」(2002年12月号〜2003年12月号)に加筆。
 親友の忘れ形見、亜弥が、ある日「僕」を訪ねてくる。26歳で自ら命を絶った友と、40歳になった僕。「あの人のこと教えて」と訴える亜弥の手首にはリストカットの跡があった――表題作ほか、家族を描いた4篇を収録。
 4篇すべて主人公は40歳。ぞれぞれ結婚し、家庭を持ち、そして問題を抱えている。「まゆみのマーチ」は、ひとり息子の不登校に悩む父親が描かれている。大学病院に連れて行き、MRI検査を受け、脳波を調べ、カウンセリングを受けさせても原因はわからない。そんな試行錯誤の日々のなか、地方に住む母が危篤状態に陥る。駆けつけた病院で二年ぶりに会った35歳の妹。その妹もまた小学生の頃、不登校だった。子供の心の問題が科学的に語られることのなかった当時、母が取った行動とは。
 決して忘れていたわけではない、むしろ考えすぎるくらい考えていたはずなのに、ある日突然、まるで当たり前のように突きつけられる、もう一つの“家族”のなんと圧倒的なことよ。

★★★★(2004.3.16 白犬)


愛妻日記  4-06-212180-8
講談社 1600円


 2003.12.18 初版。初出は「小説現代」(02年1、5、9月号、03年1、5、9月号)だが初出時には“直木三十六”というふざけた筆名での匿名掲載。一冊にまとめるにあたってカミングアウトした、ということのようだ。
 で、エロ小説集。いやんエッチ、と顔を赤らめるほど純情でもないのですいすい読みましたが、うーむ、微妙。いずれも夫婦間の性愛を扱っているので(そのあたりが確かに重松的だ)あまり劣情を刺激されないというかなんというか(笑)。実家に帰って親がいる家のなかでどうのこうのという「童心」とかになるとかえって《萎え》みたいな。ってなにいってんだか。
 ま、そんなわけで、ファンは読んでもいいと思いますが、はじめて重松を読もうという人は別のものから入ったほうがいいと思われます。

★★★☆(2003.12.21 黒犬)



 奥様には隠れて読んでほしいのです――重松清初の性愛小説集。「匿名で官能小説を」という注文を受け、一度限りの企画物のつもりで表題作を書いたらハマってしまい、志願して二作目以降を書き継いだという全6編。初出『小説現代』。掲載時のペンネームは直木三十六。
 『疾走』でイメチェンに成功したと思っていたらこんなところでも。うまい人は何を書いてもうまい。“ゴボ天”の坂東作品よりずっといい。がしかし。女性読者としてひと言申し上げたい。それはパンストとガードルとブラジャーについてである。
 収録作品はいずれも「夫婦」の物語で、いろんなタイプの「妻」が出てくるが、ほとんどの妻がパンストとガードルとブラジャーでカッチンコッチンに武装しているのである! 外から帰ってきた妻がガードルをはいているのはわかるが、一日中家にいる妻がガードルをはくだろうか。
 夜寝るときにブラジャーを着けている妻もいる。某大手下着メーカーが綿密なる調査のうえ、わざわざ「就寝時用ブラ」をつくったというが、結婚してからもう何年もたっていて、大きなお子さんがいるような女性がブラジャーをしたまま寝るだろうか。ちなみにわたしは、小娘の頃から寝間着の下はパンツだけのゆるゆる状態である。ガードルなどもう何年もはいたことがない。さらにここ数年はストッキングとも無縁の生活をしている。
 著者自身の妻や過去のガールフレンドがそろいもそろって矯正下着愛好家で、締め付けから解放された肉体にエロティシズムを感じるということなのだろうか。

★★★★(2004.1.3 白犬)


哀愁的東京  4-334-92404-2
光文社 1500円

「小説宝石」に掲載したものを再構成・大幅加筆+書き下ろし。重松清の最新連作長篇。生きる哀しみを引き受けたおとなのための“絵のない絵本”。MAYA MAXXの絵を使った装幀いい。
 主人公はライター仕事で糊口をしのいでいる絵本作家の進藤。『パパと一緒に』という作品で賞をもらったが、それ以来ずっと書けないでいる。この受賞作が物語を紡いでゆく役目を果たしている。
 とくに「遊園地円舞曲」に出てくる老ピエロにまつわるエピソードいい。リストラされてからも閉園間近の遊園地で子供たちに風船を配り続けるノッポさんと、その相方だったビア樽。遊園地という舞台装置と道化師の滑稽な外見のさりげない描写が、読み手の想像力をかきたてる効果を生んでいる。
 ケチをつけるとすれば女の編集者。入社2年目の「ぷくぷくと太った女の子」が、恐るべき純粋さで進藤に執筆を迫るわけだが、わたしにはどんくさく感じられてたまらない。ありがちな“色気”を排除したかったのかもしれないが、もう少しスマートに描いてもよかったのではないのか。

★★★★(2003.11.12 白犬)



 2003.8.25 初版。初出「小説宝石」の8篇と書き下ろし1篇の連作短篇集。
 語り手はフリーライター。絵本作家でもある。しかし絵本は、名のある賞を取ったにもかかわらず、しばらく書いていない。
 ライター仕事で出会った人々とのかかわりを書きつつ、徐々に絵本作家として再挑戦しようとする主人公のこころの動きを描くのだが、ややまだるっこしい感じもしてしまう。
 彼の担当者であるところの女性編集者がなあ……若いとはいえ、ちょっと。主人公を“煽る”役回りとしては、幼過ぎて物足りない。

★★★(2003.12.15 黒犬)


送り火  4-16-322370-3
文藝春秋 1619円


 2003.11.15初版。初出「別册文藝春秋」237〜245号。「アーバン・ホラー作品集」と帯にあり。
 架空の私鉄・武蔵電鉄富士見線沿線を舞台にした10篇。新宿から出ていて、多摩あたりまで延びているということは京王線っぽいです。「笹原」とか「つつじ台」なんて駅名も出てくるし。
 一歳児を連れて公園デビューをするがママ友らに翻弄される「漂流記」、そこはかとなくコワい。「送り火」「家路」もしみじみ系でなかなかよろしい。

★★★☆(2003.11.22 黒犬)


熱球  4-19-861490-3
徳間書店 1600円


 2002.3.31 初版。初出「問題小説」00年11月号〜02年1月号。
 20年前、あと一歩のところで甲子園行きを逃した「悲運のエース」ヨージ。会社を辞め、妻のボストンへの単身赴任をきっかけに、今は父親がひとりで住む実家に娘とともに移り住むことになった。
 昔の野球仲間とのつきあい、老いた父をどうするか、子供の教育、母校の野球部コーチ、さまざまな難題がヨージにふりかかる。ちょっと疲れた38歳男子が故郷で再生する物語。
 帯の背には「帰郷小説」とある。うまいネーミングだ。田舎のある人――田舎から出てきた人――には身につまされるところもあるかもしれない。

★★★☆(2003.11.11 黒犬)


疾走  4-04-873485-7
角川書店 1800円


 主人公シュウジの家は4人家族。腕のいい大工の父と母。決して裕福ではないはシュウジの家は成績優秀でプライドの高い兄を中心にまわっている。中学に入ったシュウジは陸上部に入り、最初の試験で学年上位の成績をとるが、母親はたいして興味を示さない。だが、それでいいと思っている。兄のことが好きで、兄のことで笑う両親が好きだったからだ。だが、その兄がおかしたささやかな罪をきっかけに、シュウジの家から笑いが消える。いじめ、裏切り、暴力、ひきこもり、一家離散。想像を絶する孤独のなか、ただ、他人とつながりたい――それだけを胸に生き抜いた少年の軌跡。
 まったく情け容赦というものがなく、読んでいて息苦しいくらいである。成長期の少年が避けて通れない「性」の問題も丁寧に描かれている。
 本作の舞台は大阪から二時間足らずの町。土着の「浜の者」たちが、干拓地に流入してきた「沖の者」を見る目は冷たい。少年犯罪がめずらしくもなくなってから久しいが、事件現場が大都市ではない場合、なんであんなのどかそうなところで育った子どもがと、つい思ってしまう。これは、都会は人間関係がすさんでおり、田舎は豊かであるという、たんなるイメージの刷り込みにほかならない。密接な人間関係が、かえって人を追いつめることもあるのだ。
 「重松清、畢生の1100枚!」と宣伝文句は大げさだが、重松清の、いまの時点での集大成といってもいいだろう。次作おおいに期待。

★★★★☆(2003.9.16 白犬)


 2003.8.1 初版。初出「KADOKAWAミステリ」00年7月号〜02年3月号、02年5月号〜7月号。掲載分を大幅改稿。
 打ちのめされた。
 1100枚。二段組。
 いやもうこれ、どうよ。久しぶりに重松清を読んだけど、こういうの書いたか、と。救いもなんにもなく、どうしようもなく暗く、不幸。大人のせいでもあるけど、本人のせいでもあって、でも誰も助けてはくれなくて(助けようとしてくれる人はいるけど)……この主人公の声なき呻き声が痛い。
 果たしてここまで真剣に地獄を見たうえで、犯罪に手を染めている少年がいるのかどうかは微妙なところだ。いや、むしろもっと安易に走っているんだろう。それがまた、この時代の救いのないところでもある。
 この本は、すごい。

★★★★★(2003.10.6 黒犬)


カカシの夏休み  4-16-766901-3
文藝春秋/文春文庫 590円


 2003.5.10初版。単行本は00年5月刊。
「カカシの夏休み」「ライオン先生」「未来」3本収録の中篇集。
「カカシ」「ライオン」の主人公は教師。「未来」の主人公は違うけど、学校の先生も出てくる。というわけで教育関係者必読の一冊(嘘かも)。
「カカシ」は、問題児をかかえる37歳の小学校教師が、中学時代の同窓生の急死がきっかけて他の友達と再会し、あれこれ思い悩む話。「ライオン」は妻を早くになくした高校教師が――これまた問題のある生徒をかかえているんですが――娘とじぶんの頭部とのあいだで思い悩む話。
「未来」は、自殺した同級生が最後に電話してきたということが原因で不登校・引きこもりになってしまった若い女が、社会に戻ろうとしていたら、弟がとんでもないことになってしまって思い悩むという話。
 ようするに、思い悩むんですな、みんな。しかし作者および主人公と同年代のせいか、「カカシ」にはやられた。いや、ほかの2篇にもやばいところはあるんだけどね。あざといといえばあざとい。浅田次郎をもうちょっと若向けにした感じといってもいいかもしれない。
 でも、それくらいこっちを揺り動かしてくれれば満足。

★★★★☆(2003.5.16 黒犬)


 重松清の作品集。表題作をふくむ3篇収録。
 表題作は、ダムの底に沈んだ故郷を離れて二十余年、旧友の死を機に再会した中学の同級生たちの話。主人公の小谷は37歳の小学校教師。授業中に児童が問題を起こしてもただ立って見ているだけであることから、「カカシ」というあだ名で呼ばれている。2作目の「ライオン先生」は44歳の高校教師。なぜライオンなのかは読んでのお楽しみ。ぜんぶ中年先生物語かと思ったら、3作目の「未来」はクラスメートの自殺をめぐる責めから高校を中退した女の子。ただしこれも学校の話。
「カカシの夏休み」で、教師たちが職員室で「ノスタルジー禁止」と言い合うシーンがある。「昔はよかった」を言い出すと教師はやっていけないというのだ。これは教師だけに限らないだろう。いまの子どもたちも中年になったら「昔はよかった」と言うようになるだろうかと、本書を読んでそんなことを考えた。

★★★★☆(2003.6.3 白犬)


流星ワゴン  4-06-211110-1
講談社 1700円


 リストラ、妻はテレクラ、受験に失敗した息子は暴力に走る。死を決意した37歳の「僕」の目の前に死んだはずの親子が乗った不思議なワゴン車が現れる。そして僕は自分と同い年の父に出会う。
 かなりベタな設定だし、やたら具体的。たとえばワゴン車は「赤ワインのような色をした古い型のオデッセイ」。全身ガンに侵された父を足繁く見舞うのは、会社経営者の父がくれる5万円の「御車代」と交通費の差額が欲しいから。ああでも、参りました。ごめんなさいもうしません。
 とくに父親いい。叩き上げのえげつなさと、地方人の善良さといったようなものが実に見事に描かれている。SFチックな話で、これほどムラなく読めるというのも珍しい。37歳ぐらいの男親だったら泣けるかもしれません。

★★★★☆(2002.4.1 白犬)


 2002.2.8初版。初出「小説現代」01年1月号〜12月号。
 死を覚悟した主人公は、終電の出たあとの駅前で死者の運転するオデッセイに乗り込む。運転しているのは橋本さん。同乗しているのは長男の健太くん。五年前に事故死した父子だ。彼らに先導されて、主人公は崩壊した家庭や親子関係をたどることになる。
 家族ファンタジーは重松清の得意とするところですが、過不足なく書かれていていい感じ。煽りすぎもせず、地味すぎでもなく。

★★★★(2003.11.9 黒犬)


定年ゴジラ  4-06-273109-6
講談社/講談社文庫 695円


 2001.2.15初版。98年3月に講談社から出た同名の連作短篇集に後日譚1篇をくわえて文庫化。
 主人公は、定年退職したおじさんたち。というより、彼らが若いときに購入した、郊外の分譲地「くぬぎ台」が主人公なのかもしれない。都心から2時間近くかかるのに、まいにち一生懸命通勤したおじさんたちが、定年後どう生きていくのか。こどもたちや奥さんと、どう対峙していくのか。――という、いわば《おじさんがんばれ小説集》。
 山崎さんという、高卒後に新潟から上京して銀行員となり定年まで勤め上げた男が狂言回しとなり、かれの周辺にいる元広告代理店で息子の嫁とうまくいっていない町内会長とか、くぬぎ台の開発を計画し自身でも分譲宅地を購入して住人となった元不動産会社社員とか、ずっと単身赴任で定年をむかえて戻ってきたら居場所がなかった元運送会社社員といった人々の、定年後の生活ぶりや困惑ぶり低迷ぶりなどがコミカルに書かれている。
 この「コミカル」というのがくせ者で、私にはちょっと寒く思えるところもあったりして……。とはいえ着眼点や料理法などはすぐれている。ほろり、とまではいかずとも、ほろ、ぐらいのところはあるしね。

★★★★(2001.3.13 黒犬)


ビタミンF  4-10-407503-5
新潮社 1500円


 2000.8.20初版、2001.1.25の5刷。第124回直木賞受賞作。7篇収録。重松といえば、の「家族小説」。三十代後半の、おおむね子供といまいちうまくいかないおじさんの物語。そうではないもの――そのおじさんと親との関係とか、夫婦の問題とか――もあるけど、だいたい親子関係がメイン。鈴木光司よりはいいけど、ちょっと飽きる。
 子供がいじめに遭っていたり、反抗期だったり、相手にしてもらえなかったり、それぞれ困難な親子関係をなんとか維持し、好転させようと努力してらっしゃるわけだが、どうしてそこまで思いつめなくてはいけないのか、実感がわかない。共感がもてない。そりゃあたしにゃ子供はおらんけど、(親の所有物だった)自分の子供時代を思い出してみても、そんなあなた中学生で親になんでも喋ったりしたらそのほうが異常だと思いませんか。
 昔と今とでは状況が違う? そうかもしれない。幼年・少年の自殺や犯罪は増えているのかもしれない(統計とかみてないからわかりませんが)。でも、それってようするにもっと幼い頃の“教育”の有無じゃないのかね。子供が中学生になってからあわてふためいて、会話を絆を、などと言ったって遅いのではないか。
 と、まあそんな、うろたえる少子化ニッポンの将来を考えてみたりもするんだけど、一夜明けてみると十七歳の母親が一歳の長男を殴り殺したなんて記事を見たりして(2001.2.26朝日朝刊)、なんかよくわからんけど、ダメじゃん、と思いました。わっはっは。十六十七のガキが子供産むなよ。

★★★☆(2001.2.25 黒犬)


四十回のまばたき  4-344-40010-0
幻冬舎/幻冬舎文庫 533円


 2000.8.25初版。親本は角川書店から93年11月。そういえば単行本で読んだし。
 再読なんですが、当然細かいことは忘れておりまして、そこそこ楽しめました。今をときめく重松清の初期の傑作、なのかな。どことなく村上春樹っぽさもあって気恥ずかしいんですが、そこがまたよろしい。いや、最近露出気味のあのかたの風貌を考えると、どうしたって主人公より登場するアメリカ人作家“セイウチ”に似てるよなとか思っちゃいますが。
 妻を交通事故で亡くし、その妹――冬になると一日じゅう寝てしまうという病気持ち――と暮らす翻訳家である主人公。なかなか切なくてよろしいです。
 それにしても解説書いてる藤田香織って、誰よ。「文芸評論家」らしいですが。なんか自分語り入っちゃってて、みっともないです。あんたがパチンコに行こうが離婚しようがどうでもいいよ。未読の重松本があることも、わざわざ書かなくていいよ(俺持ってるけどね、『私の嫌いな私』。へへ〜んだ)。

★★★(2000.8.15 黒犬)


ナイフ  4-10-134913-4
新潮社/新潮文庫 590円


 2000.7.1初版。親本は97年刊。坪田譲治文学賞受賞作。短篇集で、テーマは「いじめ」。
 どよ〜ん。
 暗いです。5本収録されています。学校で、仲間はずれにされたり、それどころかひどいいじめ(しかしなんつうか「いじめ」という言葉でなんでもすませちゃう風潮はどうかと思う。あきらかに「傷害」「虐待」ってのもあるだろうに)の被害に遭う少年少女。そんな事態に対峙せざるをえない父親と母親。救いの(少しだけ)ある終わりかたをしていても、読むのは痛いしつらい。
 もちろん重松自身、とっくに「おとな」であり、彼が描く少年たちの「現実」が、真実であるわけはない(もっとひどいだろう)。ここで書かれるのは「小説」でしかないのだ。向き合わないわけにはいかない子供たちにとって、小説がどれだけの力をもつのか、どうにもわからないのだが。
「エビスくん」にはちょっと泣けた。

★★★★(2000.7.2 黒犬)


エイジ  4-02-257352-X
朝日新聞社 1600円


 つい最近山本周五郎賞をとった作品。これまた『うつくしい子ども』(石田衣良)同様、若年齢者による犯罪をあつかった小説です(こっちのほうが先だけど)。
 こちらは徹頭徹尾、中学生の視点から書かれている。少年エイジの同級生が、じつは通り魔事件の犯人で……という話。どうしても「うつくしい〜」と比べてしまうんだけど、あちらの主人公・幹生より、かなり恵まれているエイジ君です。そりゃ家族が犯罪者になるのとクラスメートがそうなるのとでは全然違うけど。それだけではなく、エイジの場合、両親にも恵まれている。本人が、ホームドラマだと感じてしまうぐらい。お父さんはギターを買ってくれるし、お母さんはいっしょにプレステをやっちゃうしね。
 だからといって中学生エイジが幸せだとは限らないわけで、片思いをしたり、大好きなバスケットが膝の故障でできなくなって休部したり、バスケ部の友達はいじめられたりするしで、いろいろと忙しく、それなりに不幸でもある。誰にでも記憶はあるであろう、中学生時代のはがゆさは、さすがに筆達者の重松清、かなり的確に書かれている。
 じゃあ全体を通して「うつくしい〜」より勝っているのかというと、そうとも言い切れない。というより、「エイジ」は青春小説(少年小説)であり、「うつくしい〜」は少年の目を通しているとはいえ、やはりミステリーなのだ。同じ土俵にあげるのには無理がある。一見すごく近いもののような気がしてしまうけど。(朝日文庫版あり。)

★★★★(1999.5.24 黒犬)

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last updated : 2004/07/25
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