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July 01, 2005

西加奈子『さくら』●○

 2005.3.20初版、2005.4.20第3刷。書き下ろし、なんだと思う。
 帯の表4を編集者が書いている。曰く、

いままで本を読んで泣いたことは、一度もありませんでした。
でも、この作品を読んで、はじめて涙をこぼしました。

 けっこう評判になってるのかな。書店にみたら別バージョンの帯(読者からの感想とかがコマゴマと紹介されている)があったみたい。感動がどーのこーのとか。
 で、読んでみた。
 大学生の「僕」が実家に帰る。父親が三年ぶりに帰ってくるというので。恋人には12歳になる飼い犬のサクラに会いたいからと嘘をついて。
 そして物語はまだ「僕」が三歳、妹のミキが生まれた頃にさかのぼり、長谷川家の20年近くの歴史をたどってゆく。なんでもできるヒーロー然とした兄と破天荒だがもてまくる妹にはさまれ、やや屈託のある「僕」は、成長するにつれて女の子に恋をするようにもなる。「幸福な家庭」を絵に描いたような長谷川家だったが、波風が立たないわけではない。しかしサクラだけはいつも変わらず、家族をみつめている。
 てな話でしょうか。大きな事件も起こるけど、それは全6章構成の第5章以降(しかしあちこちで書かれてますな。ひどい……)。
 はあ……。
 犬の話だと思って読み始めたんだが、家族の話だった(犬も家族の一員ではあるが)。まあそれはいい。犬に馬鹿な台詞を言わせるのはやめたほうがよかったと思うけど。
 それにしても読みづらい。カギカッコのなかの台詞が句読点で終わってるのは、まだ許そう。許せないのは、

 とゆうわけでミキがすろん、とこの世に誕生した日は、雨が降っていた。(p.59)
 とゆう、いまいち説得力の無い駄目押しの一言を言って、走り出した。(p.66)

 などのように連発される(地の文での)「とゆう」「そうゆう」だ。高校生ぐらいの子が背伸びして書いた小説なのかと思って著者紹介を見ると1977年生まれ(しかもこの本は2作目)。28歳にしちゃ幼すぎる。
 家族小説としては今や王道といっていいほどのテーマ(ということは、裏を返せば陳腐になってしまいがちなわけだが)、も入ってるから不足はない。が、この小説が世間でいわれるほど感動的で、思わず泣けてしまうようなものだとは、どうしても思えない(泣けりゃいいってもんじゃないことは言うまでもない)。小学館の宣伝サイトにある感想にも違和感ありまくり(まあ書店員さんの声ですけどね)。
 そんなにひどいというわけではないけれど、こういう本が14万部売れちゃうというのも、すごいなあ。他にもっと読まれるべき小説はたくさんあるんだけどなあ。
 いま、トラックバックさせてもらおうと感想を検索してみたらアーヴィングの『ホテル・ニューハンプシャー』との類似を指摘されているかたがちらほらと。ああ、そういえば、似てますねえ。似ていてもいいんだけどさ。おもしろければ。

★☆(2005.6.26 黒犬)


 小学館的には「セカチュー」と「いま会い」に連なる感動路線らしいが、これが身も蓋もなく売れちゃって20万部。2万じゃなくて20万だよ20万。「本屋大賞2006」の2次投票まで残っているのも驚きだけど、なにしろ大賞が『東京タワー』ですからね。そっちはどうでもいいや。
 いやもう、どうなってるんだろう。百歩譲って訊くが、これが本当に「泣ける本」か? どこかにちらっとでも「感動」とか「涙」だとか書いてあると、たちまち飛びついて、なにがなんでも感動してしくしく泣かなくちゃならないことにでもなっているのか。ものを知らない若い世代ならともかく、いいおとながこのストーリーに感心するとはとうてい思えぬ。

★☆(2006.5.5 白犬)

小学館 1400円 4-09-386147-1

posted by Kuro : 23:53

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comments

けっこう前の日記みたいで、いまさらですが…失礼します。
辛辣ながら的を射たコメントにすっきりしました。
知人に無理やり貸されて読後の怒りをどこへもって言って良いのか分からなかったので。
それから『さくら』の著者が小説新潮にエッセーらしきものを書いているのですが、これを読んだらあなたの著者に対するご指摘は間違っていないとさらに実感させられると思います。
同世代として恥ずかしい。そして時間を返してほしいです。

http://www.shinchosha.co.jp/shoushin/200509/c_haradachi.html

投稿者 manulu : September 12, 2005 09:45 PM

manuluさま

コメントありがとうございます。

まあ世間にはいろんな28歳がいますからねえ(笑)。案外いちばん微妙な(オトナっぽい人からコドモっぽい人までいるような)年代なのかもしれません。
18歳ならコドモっぽくて当たり前ですし、38歳でこれだったら救いようがない(いや、それはそれでおもしろいかも?)。

はたして著者が今後成長していけるのかどうか(大きなお世話ですが)というのがポイントでしょうね。もちろんあたたかい目で見守ったりは全然しませんが、でも実力がある人(あるいは実力を身につけていく人)であれば、こちらが放っておいてもいずれ頭角をあらわしてくることでしょう。もしこの本が評判になって、それに甘んじているようであれば、未来はあまりないだろうと思います。
あの「さくら」を書いた人が、一皮剥けた、そんな噂をきいたら、また手にとってみるかもしれません。あくまでも「かも」ですが。
このままだったら、ちょっとね。

それにしても、無理矢理貸してくれちゃうような知人さんには、困ってしまいますねえ。いや、きっとすごく「いい人」なんだろうなとは思いますよ。でも、ねえ(笑)。笑っちゃいけませんね。
駄犬堂書店で、口直しになるような本がみつかるといいのですが。

投稿者 黒犬 : September 12, 2005 11:00 PM

うわ。14万部も売れたんですか、これ。
それはそれでびっくりです。
宣伝の力って、すごいですねー。
コメント&トラバありがとうございました。

投稿者 ゆうき : December 4, 2005 10:55 PM

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