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June 27, 2005

桐野夏生『魂萌え!』○

 初出「毎日新聞」2004年1月5日〜12月28日。
 関口敏子は59歳の専業主婦。物語は心臓麻痺で急死した彼女の夫の葬儀シーンで始まる。ずけずけと物を言う夫のきょうだい、急に寄りついてくる二人の子。知りもしなかった女の存在。夫の死によって直面することになった世間は、決して穏やかなものではなかった。

 ありきたりで地味な話だが、これが読ませる。女性は夫に先立たれても立ち直りが早いとよく言われるが、そうそう簡単なことではなさそうだ。
 主人公の敏子は、いってしまば結婚以来「何一つ判断して来なかった人」である。いきおい迷う、流される。いよいよ追い詰められたら思考中断。そこらへんが思わず唸ってしまうくらいうまい。本来、助けになるべき二人の子供がまた、そろいもそろってダメである。長い付き合いの女友達もさほど頼りにはならぬ。夫の死後、思いを寄せることになった男も、目が覚めてみれば軽薄でうさんくさい。ここはどこ? あたしは誰? という叫びが聞こえてきそうだ。
 帯の背に「若い人には、まだ想像できない世界」とあるが、むしろ若い人の感想を聞いてみたい。見方を変えれば、これも一種のシミュレーション小説であろう。あすはわが身。

★★★★(2005.5.3 白犬)

毎日新聞社 1700円 4-620-10690-9


posted by Kuro : 02:54

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comments

はじめまして。
TBありがとうございました。
明日は我が身・・・そのとおりですね。
私も若い人の意見が聞いてみたいです。
この本、装丁が美しくて目を引きますね。

投稿者 ミチ : June 27, 2005 09:16 AM

TBありがとうございました。
自分の身を見つめてリアルな内容でしたが、実はもう一つの問題があることにもすぐに気がつきました。それは夫婦ともに親の介護という深刻な問題があるはずなのです。これをクリアして「萌える」小説にもお目にかかりたいものです。

投稿者 よっちゃん : June 27, 2005 09:20 AM

ミチさん。
コメントありがとうございます。
装画はシャクヤクでしょうか。あらためて、帯を
はずして見てみました。きれいですね。
水口理恵子さんの絵は『残虐記』にも使われてい
るようです。

投稿者 白犬 : June 27, 2005 06:31 PM

よっちゃんさん。
コメントありがとうございます。
親の介護も避けて通れない問題ですが、その先、
じぶんの老後を考えると、なんだか暗くなって
しまうきょうこの頃です。
萌えてみたいのはやまやまなんですが。ふふ

投稿者 白犬 : June 27, 2005 06:39 PM

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