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June 22, 2005

ロバート・クレイス『ホステージ』(上・下)●○

 2005.5.15初版。原著(c)は2001年。ブルース・ウィリス主演で映画化決定(現在公開中)にあわせて邦訳出版ってことでしょうか。
 タイトルの意味は「人質」。しかし映画のタイトルに揃えたとはいえ、「ホステージHostage」といわれてすぐわかる人がどれくらいいるのか、ちょっと疑問です。ホストのステージだと思った人も10人ぐらいいそうです。もっとも「人質」じゃあディック・フランシスの新刊だと思う人が出てくるかもしれませんが(ないない)。
 三人組の強盗が食料雑貨店(Grocery Storeなんだろうな、きっと)を襲い、店主を撃って逃走する。彼らが逃げ込んだ先は会計士の家。会計士とその子供たちを人質にとり、強盗犯は立てこもる。所轄の警察署長タリーが事件の指揮をとる。彼は以前ロス市警でSWATの一員として危機交渉を担当していたが、ある事件がきっかけで退職、妻子と離れて今の職に就いたのだった……。
 そのタリーが、どうやって事件を解決するかという物語なのですが、もうすでにあちこちでプロットは語られています。カバー表4のコピーを読むだけで、だいたいの筋はわかってしまう。ただ、できればそういう情報には耳を傾けず、目に入れずに読み始めるのがいいと思います。せっかくのジェットコースター、最初からブレーキをかけちゃつまらない。
《十八歳の高校最上級生》(p.213)みたいなこなれない日本語もあるが(あえてseniorまで訳さなくてもなあ)、ぐいぐい進みます。上質の娯楽小説といっていいでしょう。
 しかしまあエルヴィス・コールを近年に二作も出してるんじゃないか。扶桑社でも講談社でもいいから早く出してくださいよ(ついでに新潮社も初期のやつを復刊してくれ)。映画化で話題になるだけじゃ悲しすぎます。

 帯表4に書店員さんたちの推薦文が掲載されているのですが(《ミステリー通の書店員たちも瞠目》ですと)、なんか微妙……。どうなんだろう、こういうの。私はあまり好きじゃないなあ。このスペースって、推薦文を入れるのでなければ、同じ著者の既刊本を紹介するか、本文からの引用を入れるかしかないようなスペースなので、新しい試みだということはわかるけど、だけどこれだったら何か別のことをしてもいいと思うんだけどなあ。書評家のギャラを節約したのかよと。だったら担当編集者が思いの丈をぶちまけてもいいと思うんだ。そうしたら、ずいぶんな腕の見せ所になっただろうに。

★★★★(2005.6.19 黒犬)


 ブルース・ウィリス主演で映画化。ご本人が来日、新宿歌舞伎町でのイベントでファン3000人に取り囲まれた様子はテレビニュースなどでも報じられた。
 ロサンゼルス市警の元SWAT隊員ジェフ・タリー。かつては危機交渉担当係(ネゴシェイター)として辣腕をふるっていたが、ある籠城事件で人質の子供を死なせてしまい退職。妻子とも別居して、いまはカリフォルニアの田舎町ブリスト・カミーノで警察署長をつとめている。この略歴だけでもブルース・ウィリス以外考えられないよ。あはは。さて、そんなわけで昔にくらべたらずいぶんのんびり暮らしていたタリーだが、ある日、地元のチンピラ3人組が食料雑貨店で強盗をはたらいた末に、高級住宅地の豪邸に逃げ込み、会計士とその子供2人を人質にとって立てこもる。署長としてふたたび籠城事件に直面するタリー。すでに警官ひとりが撃ち殺されている。保安官事務所に危機対応チームを要請するがなかなかやって来ない。さらに、チンピラ三人組にとらわれた会計士、じつはただ者じゃなかった。
 ああ、おもしろかった。トラウマをかかえた男が悪夢の再来ともいうべき事態のなかで突きつけられる究極の選択。こういう作品はそれこそ、カリフォルニアの高級住宅地の豪邸のプールサイドで読みたい。映画はみてないけど、おそらく原作をしのぐできばえでしょう。読んでからみるか、みてから読むかはあなた次第。

★★★★☆(2005.8.27 白犬)

"Hostage" by Robert Crais 村上和久・訳 講談社/講談社文庫
 上・下各667円 4-06-275117-84-06-275118-6

posted by Kuro : 03:18

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