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April 29, 2005

村上龍『半島を出よ』(上・下)●○

 2005.3.25初版。書き下ろし1650枚。近未来ポリティカルサスペンス、とでもいうのであろうか。新聞広告も大々的に打ってるし、テレビの「情熱大陸」で装幀家の鈴木成一を取り上げたときは、この本のデザインの裏話も出てきたし村上龍もコメントしていたし、かなり売れているんじゃないかな。
 村上龍の近未来物といえば、古くは『愛と幻想のファシズム』、最近だと『五分後の世界』『ヒュウガ・ウイルス』(全然最近じゃないすね)あたりの路線。調査・取材した結果を思いっきりぶちこんでるところは『希望の国のエクソダス』を思わせる。
 メインとなる舞台は2011年4月の福岡。北朝鮮から9人の特殊部隊が潜入し、福岡ドームを占拠する。さらに500人の本隊が送り込まれ、福岡市中心部を制圧。北朝鮮の反乱軍を名乗る彼らに対し、日本政府は、そして一般市民はどう対応するのか。
 現代の政治状況ともあいまって、“ありえねえよこんなの”と“もしかしたらあるかも(何すっかわかんない国だし)”のあいだでふらふらしながら一気読み。そんなに簡単に決着がついていいのかよと思わないでもなかったが、そうでもしないと話は終わらないわけでそこは仕方なかろう。近未来の日本も、適度に“ありそう”なのが怖いところだ。今の、一見平和な生活がいつまで続くのか、そんなことまで少し考えさせられた。

★★★★(2005.4.18 黒犬)


 幻冬舎創立11周年記念特別書き下ろし1650枚。
 美しいヤドクガエルを使った装幀いい。いつまでも飾っておきたくなる。
 2011年4月2日。北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠。2時間後、アントノフ2型輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧。彼らは「反乱軍」を名乗った。さらなるテロの危機に日本政府は福岡を封鎖する。逮捕、拷問、白昼の銃撃戦――北朝鮮の後続部隊12万人が博多港に接近するなか、見捨てられた福岡は苦渋の選択を迫られる。

 まず上巻巻頭で6ページに及ぶ〈登場人物〉に圧倒される。東京の政府関係者47人、北朝鮮側関係者41人、福岡県および福岡市関係者14人、市民その他33人。合計135人である! くわえて北朝鮮側関係者の41人中8人が「キムさん」で、福岡市民その他33人はすべて片仮名表記だ。しばしば参照しなくてはならないことを考えて暗い気持ちになったが、杞憂であった。そんなことをしているヒマなどない。一気読み必至。
 前半でとくに印象に残ったのは、日本人に容易に危機が浸透しないさまである。重装備のコマンドを見てもぼーっとしている。そうだろうなと思う。わたしだったら「なにこの軍装マニア」などとつぶやきながら、じろじろ見てしまうだろう。財政が破綻し、国全体が弱体化しているいま、もはや平和ボケだのと言ってほけほけ笑っている場合ではない。
 個々人とともに政府や自治体のあり方を正確に描き込んだシミュレーション小説といえば、高嶋哲夫の『都庁爆破』や『M8』を思い浮かべるが、どうしても解説じみてしまうためか、ストーリーの単調さは否めない。その点、原籍「純文学」は強い。作家生活29年。村上龍の現時点での集大成、おすすめ。

★★★★★(2005.4.10 白犬)

幻冬舎 上1800円・下1900円 4-344-00759-X4-344-00760-3

posted by Kuro : 17:27

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comments

ご無沙汰しています。
トラックバックさせていただきましたm(_ _)m

投稿者 ahaha : June 30, 2005 08:46 PM

ahahaさま。
トラックバックありがとうございます。感想、拝見しました。
参考文献総冊数を数えるとは! 目のつけ所がユニークで、楽しませていただきました(ってちゃんとそちらにうかがって書かなきゃダメじゃないか、俺)。

投稿者 黒犬 : July 2, 2005 04:32 AM

こんにちは。りょーちと申します。
久々に村上龍を読んだのですが、文字通り大作でしたね。
本書を読んで「コインロッカー・ベイビーズ」や「愛と幻想のファシズム」をもう一度読んで見たくなりました。

ではでは。

投稿者 りょーち : July 28, 2005 11:36 AM

りょーち様。
コメントをありがとうございました。
確かに、冷静になって考えると、いろいろ瑕疵はありますね。読んでる最中のランナーズハイ状態、すごくよくわかります(笑)。
今後ともどうぞよろしく。

投稿者 黒犬 : July 29, 2005 02:03 AM

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