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February 09, 2005

中島たい子『漢方小説』○●

 31歳で独身の川波みのりは、元カレが結婚すると知ったその日から、原因不明のふるえに襲われるようになった。病院でも異常は見つからない。行き着いた先は漢方診療所。
 はじめての東洋医学に戸惑いながらも、みのりは自分に何が起きているのか、答えを探して行く。
第28回すばる文学賞受賞作。著者は日本テレビシナリオ大賞を受賞したこともある、現役シナリオライター。なるほど、この軽妙さはシナリオの技術か。たとえばこんなところ。

「川波さんは、腎、肝などが弱いんです」
「あの、漠然としたことではなくて、病名はなんなんですか?」
 先生は、私を見て一瞬黙ったが、答えた。
「ない」
 椅子から転げ落ちそうになった。(p.50)

 東洋医学や漢方薬の解説も入り、なかなか興味深い作品だが、いかんせん話が薄っぺらい。かんじんのテーマが消化しきれてないように思う。シナリオ作家だけに、読ませるためではなく、見せるために書いているのではないのか。みのりが心を寄せる漢方医だけは例外だが、個性派ぞろいのはずのほかの登場人物が、各人くどいくらいに性格その他、説明されているわりには印象に残らない。
 なお本作は第132回芥川賞候補作だったが、受賞したのは阿部和重『グランド・フィナーレ』。わたしは山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』を応援していました。残念。

★★★☆(2005.1.8 白犬)


 2005.1.10初版。第28回すばる文学賞受賞作にして第132回芥川賞候補作。
 映画制作にたずさわる主人公が、じぶんの病気(精神的なもの)を治すために漢方医をたずねる。東洋医学の入門書的なエッセンスを加えた《癒し系小説》(笑)。
 漢方についてはなにも知らないので、〈16へぇ〉ぐらいボタンは叩いた。ストーリーとしては、そんなに目新しいものではなく、いかにも“若い女の子が書きそうな”小説というレベルに留まっている。もっとも、おじさんたちはそういうのが売れると踏んでるんだろうけどね。去年の芥川賞受賞作『蛇にピアス』(金原ひとみ)のような〈衝撃〉は(良くも悪くも)なかったってこと。

★★☆(2005.2.8 黒犬)

集英社 1200円 4-08-774743-3

posted by Kuro : 15:40

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お久しぶり、である。今年も望みもしないのに勝手に年の瀬が来て、全く本意ではないにしろ忙しい。しかも季節感ゼロの事由で忙しいから堪らない。これでは何のことだ... [Read more...]

トラックバック時刻: December 21, 2005 01:12 PM

comments

この作品、なんとなく気になっていました。
でも、ここで評を拝読できたし、ほかに読みたいのがたくさん(すぎる(--;)あるので・・・。
なんかとっても感謝です。

追伸:先ほどは、間違い教えていただいて本当に有り難うございました。また、よろしくお願いします(x_x)☆\(-_-メ)バキ

投稿者 ahaha : February 10, 2005 02:05 AM

ahahaさま。
ご来店ありがとうございます。
私の評価は(白犬に比べて)やや低めですが、決して悪い作品ではないと思いますよ。
平易に書かれていて、好感が持てます。機会があれば読んでみてください。

追伸:あ、出過ぎたことしてスミマセンでした。お気に障らなければよかったのですが……。
もしアレでしたら当該部分直して、私のコメントの当該部分も削除しちゃってください。へへへ。

投稿者 黒犬 : February 10, 2005 02:27 AM

TBありがとうございました。
同じような感想みたいでちょっと安心しました。

投稿者 がたオヤヂ : December 21, 2005 01:14 PM

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