スティーヴン・キング(Stephen King)

【長篇】
回想のビュイック8(上・下)[weblog]
骨の袋(上・下)
ドリームキャッチャー(1〜4)
トム・ゴードンに恋した少女
アトランティスのこころ(上・下)
不眠症(上・下)
デスペレーション(上・下)

【短篇集】
いかしたバンドのいる街で[weblog]
第四解剖室
幸運の25セント硬貨

【エッセイ・NF】
小説作法






第四解剖室
Everything's Eventual vol.1 4-10-219335-9
白石朗 他・訳 新潮社/新潮文庫 705円


 キングの第4短篇集『Everything's Eventual :14 Dark Tales』から前半6篇を収録。後半7篇は同時発売の『幸運の25セント硬貨』に収録。原書では14篇だが、2000年に電子ブックとして配信され、日本では単行本として刊行された「Riding the Bullet」は著者の意向で未収録。というわけでぜんぶで13編。全篇キング自身の解説付き。
 表題作『第四解剖室』は意識があるのに解剖台に乗せられた男の心象を描く。なんてサラリと書いてしまったが、冒頭から心臓わしづかみのおもしろさ。ブラックユーモア満載の傑作。
 他5篇は『黒いスーツの男』『愛するものはぜんぶさらいとられる』『ジャック・ハミルトンの死』『死の部屋にて』『エルーリアの修道女〈暗黒の塔〉外伝』。表題作のほかに一つ挙げるとすれば『黒いスーツの男』。この作品は世界幻想文学大賞の中短篇部門と、なんとO・ヘンリ賞の両賞を受賞している。『エルーリアの修道女』は「暗黒の塔」シリーズを読んでないので楽しめなかった。

★★★★☆(2004.6.2 白犬)


幸運の25セント硬貨
Everything's Eventual vol.2 4-10-219336-7
朝倉久志 他・訳 新潮社/新潮文庫 705円


 キングの第4短篇集『Everything's Eventual :14 Dark Tales』から後半7篇を収録。前半6篇は同時発売の『第四解剖室』に収録。原書では14篇だが、2000年に電子ブックとして配信され、日本では単行本として刊行された「Riding the Bullet」は著者の意向で未収録。というわけでぜんぶで13篇。全篇キング自身の解説付き。
 表題作『幸運の25セント硬貨』は、ホテルの部屋に客が置いて行ったチップをめぐる話。わらしべ長者ふう展開に思わず笑ってしまうが、さすが巨匠キング、一筋縄というわけには行かない。
 他6篇は『なにもかもが究極的』『L・Tのペットに関する御高説』『ゴーサム・カフェで昼食を』『例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚』『一四〇八号室』。全篇甲乙つけがたいが、「怖さ度」では『道路ウィルスは北に向かう』『一四〇八号室』の2篇。動物好きなら『L・Tのペットに関する御高説』が気になるだろう。登場ペットはシャム猫とジャックラッセル・テリアです。
 まったく、くやしいくらいおもしろい。おすすめ。

★★★★★(2004.6.4 白犬)


骨の袋(上・下)
Bag Of Bones  4-10-219331-6 4-10-219332-4
白石朗・訳 新潮社/新潮文庫 上857円・下895円


 メイン州デリーに住むベストセラー作家マイク・ヌーナンは、最愛の妻を失ったことをきかっけに深刻なスランプに陥る。夜ごと彼を苛む悪夢の舞台は、妻との思い出がつまった湖畔の別荘“セーラ・ラフス”だった。夢に引き寄せられるように別荘への向かったヌーナンを待ち受けていたのは、過去の忌まわしい出来事にまつわる怪奇現象と、トレーラーハウスに住む母娘との運命的な出会いだった。幼い娘をめぐり、土地の権力者である義父につけ狙われる若き母マッティーに力を貸す決意をしたヌーナンは、亡き妻の意外な真実を知ることになる。いったい彼女はなにをしていたのか。そして何を伝えようとしているのか。激しさを増す怪奇現象の中、ヌーナンは湖畔の街を覆い尽くそうとする死霊の怨念に立ち向かう。
 作家ヌーナンの一人称で語られる長大なゴースト・ストーリー。恐がりの人は夜中に一人で読まないように。
 舞台となる湖畔の別荘は、百年以上もの風雪に耐えた、部屋数が14もある「山荘といってもいいくらいの大きさの」建物である。改装に改装を重ね、近代的に整備されているとしても、これ以上の舞台装置はない。逆に口述筆記用の録音機や最新型のパワーブックなどのハイテク機器が、恐怖を増幅させる効果を生んでいる。日常生活の折々にふと出現する怪奇現象のエピソードの数々は、読んでいて背筋が寒くなる。やがてヌーナンは、閉鎖的な湖畔の街の住人を敵に回し、仲間を失い、ひとりきりで闘うことを余儀なくされるが、彼を巧妙で飽くことを知らない死霊に立ち向かわせるのは、死してなおメッセージを送り続ける妻ジョアンナである。ヌーナンの妻に対する思いは、義兄フランクとの関わり合いとともに、物語の重要な柱となっている。とくに冒頭から連綿と綴られるジョアンナとの思い出には静かな感動を覚える。
 さて、もうひとつ。作家を主人公としたことで、グリシャムやダニエル・スティールといった大物の実名を織り込みながら描かれる米国出版界の“内情”は興味深く読んだ。主人公ヌーナンは「批評家筋から無視されるような」ロマンティック・サスペンス作家だが、彼を通じて語られる作家の心の内は、キング自身の本音であるというのはうがちすぎだろうか。タイトル“骨の袋”に込められたもうひとつの意味を考えるとともに、長年のファンとしては本作がそういうふうにも読めた。

★★★★★(2003.10.12 白犬)


 初版。原著(c)は1998年。
 作家ヌーナンは妻に先立たれ、小説が書けなくなってしまう。過去に書いたもののストックが切れるころ、奇妙な悪夢にも悩まされるようにもなり、思い切ってその夢の舞台である湖畔の別荘へ滞在することにした。そこで彼を待ち受けていたものは――。
 というわけでキングの本領発揮ゴースト話。でも私は怪談部分よりそれ以外の部分がよかった。妻に先立たれ、妻との思い出に満たされた別荘に行って、ふとしたことで涙があふれるとか、そこで出会った若い女とその子供とのやりとりとか、そういうセンチメンタルな部分と、あちらの流行作家の生活ぶりや業界話みたいなところとか。
 ま、もちろん全体のお話にしたってキングですからはずれはないんですけどね。

★★★★(2003.12.10 黒犬)


ドリームキャッチャー(1〜4)
Dreamcatcher  4-10-219327-8 4-10-219328-6 4-10-219329-4 4-10-219330-8
白石朗・訳 新潮社/新潮文庫 合計2476円(1〜2=590円 3=667円 4=629円)


「ドリームキャッチャー」とはインディアンに伝わる魔よけのお守り。輪の中にクモの巣を象ったネットが張られており、良い夢は通すけども、悪い夢は引っかけて消し去ってくれるというもの。日本でも輸入雑貨屋さんなどで売られている。こういうのです(http://www.silkroad.ne.jp/triangle/m1-dream.htm)。本書のイメージに近いものは見つからなかった。ご勘弁を。
 物語の舞台はメイン州北部の山奥。デリーの街に生まれ育ち、いまは職業も境遇も異なる4人の仲間たち。毎年恒例の鹿狩りキャンプに集まった4人のもとに、森で遭難したハンターがやってくる。挙動不審で、何かの感染症に侵されているような男の出現が、人類殺生の鍵を握る死闘の前ブレだとは誰も知らぬまま。エイリアン、寄生生物、テレパス――モダンホラーの巨匠畢生の大作。ローレンス・カスダン監督によって映画化(2003年GWに全国ロードショー)。
 これは、ぜひとも映画をみなければ。なにしろ屁ですから。どんな屁かというと、

 いきなり蝗(いなご)の羽音を思わせる耳ざわりな音が響きわたった。(中略)こんな屁ははじめてだった。どう考えても数秒以上つづいたはずはなかったが、きく者の耳には永遠につづくかと思われた。つづいて悪臭が襲いかかってきた。(第1巻 p.135)

 その悪臭がどんなかというと、

 エーテルと腐爛したバナナのにおいをつき混ぜた臭気、気温が氷点下まで下がった朝に、エンジンを始動させるキャブレターに流し込む液体のような悪臭だった。(同 p.136)

 これはわたしが密かに人や犬のおならコレクターだからというのじゃなく、たいへん重要な意味のある屁だからね。念のため。
 前半は行きつ戻りつのストーリー展開で眠くなりもするが、後半は一気読み必至。「
本書の執筆期間ほど、小説を書くという仕事に喜びを感じたことはかつてなかった」(作者後記p359より)というのもわかる。『IT』ファンならぜひ。

★★★★★(2003.3.6 白犬)


トム・ゴードンに恋した少女
The Girl Who Loved Tom Gordon  4-10-501909-0
池田真紀子・訳 新潮社 1600円


 9歳のトリシアは、教育熱心な母と、兄とともにハイキングに出かける。途中、トイレに行きたくなるが、母と兄はいつもの口喧嘩に夢中。むくれたトリシアは一人でコースをはずれ茂みの陰で用を足すが、人目を気にして深く分け入りすぎたために、もといた遊歩道に戻れなくなってしまう。行けども行けども森は果てしなく続く。やがて日が沈み、昇っても、遊歩道は見つからない。救援隊もやってこない。唯一の心の支えはラジオ付きウォークマンで聴く、ボストン・レッドソックスの試合中継。やがてわずかばかりの食糧も底を突き……。
「森に女の子ひとり」という情況設定のみで、あとは成り行きにまかせて書いたという作品。まず9歳の「都会育ち女の子」というのがキモである。荒っぽい遊びなどしたこともないだろうし、ガールスカウトじゃサバイバル技術は教えない。むかし、どこかの森林地帯にジャンボジェットが墜落し、奇跡的に生き残った女の子が「川の流れに沿って進め」という教えを守って助かったという話があったが、トリシアも同じことを試みる。が、小川は大きな川にぶつからないし、森の外にも出ないのである! でもこのトリシア、意外としぶとい。巨匠キングの少女冒険譚、秋の夜長におすすめ。

★★★★(2002.9.10 白犬)


アトランティスのこころ(上・下)
Hearts In Atlantis  4-10-219325-1 4-10-219326-X
白石朗・訳 新潮社 上781円・下819円


 2002.5.1初版。キングの60年代へのレクイエム。
 主演アンソニー・ホプキンスで映画化。単行本・文庫本同時刊行。単行本は合計価格5600円。高いな。でも装幀ステキです。
 1960年。11歳のボビーとキャロルとサリー・ジョンは仲良し3人組だった。だが、ボビーが母親と住むアパートに不思議な老人テッドが現れてから、彼らの道はすれ違い始める。そして別れ。ここまでが上巻。下巻は1966年、メイン州立大学。ギャンブルと学生運動が吹き荒れる中、ピートはキャロルと出会う。1983年、盲のウィリー現る。1999年、ひとりの男が渋滞中に変死。それぞれの生が見えない糸を紡ぎ、物語は解きほぐされて行く。
 長大かつ濃厚。これは通勤通学や家事の合間では、とても読みこなせたものではないだろう。クライマックスが沁みなかった人は再読を。まとまった時間が取れそうなとき、たとえば長旅のお供に。

▽映画「アトランティスのこころ」
http://www.warnerbros.co.jp/atlantis/

★★★★(2002.6.5 白犬)


 初版。原著(c)1999。映画『アトランティスのこころ』の原作。だが、映画は上巻部分だけなのであった。
 1960年、11歳。ボビーとキャロルとサリー・ジョン。三人の住む街に、不思議な老人テッドが現れる。テッドはボビーに読書のよろこびを教える。それだけで終われば、ノスタルジックな夏休みの思い出話なのだが、もちろんキングのことだからそれだけでは終わらない。いつも金のやりくりに追われているボビーの母親リズや、三人を目の敵にする中学生たち、そしてテッドにつれていかれた“あの界隈”の人々。何者かに追われるテッドにかかわることで、ボビーの人生はいやおうなしに変化していく。
 映画はそのファンタジックな夏の話として描かれて終わる。しかし下巻では、1966年、1983年、1999年の彼らの物語が続いていく。やや冗長に思えないでもないが、映画が気に入った人は読んで損はないだろう。

★★★★(2003.10.23 黒犬)


小説作法
On Writing  4-901142-67-4
池央耿・訳 アーティストハウス 1600円


 2001.10.31初版。スティーヴン・キング20年ぶりの書き下ろしノンフィクション。自らの生い立ちから、作家として成功する秘訣、文章の極意、小説の大事な三つの要素等々、あますところなく綴られている。世の中には、それがとてもよくできるが教えるのはへたな人と、ほどほどにしかできないが教えるのはうまい人がいる。キングはとてもよくできて教えるのもうまい。これは教師の経験からだけのことではないだろう。だれもが知りたいことをよく知っているのだ。
 オリヴィア・ゴールドスミスのしっちゃかめっちゃか小説『ザ・ベストセラー』に、書いても書いても報われなず、やがて死んでしまう女性作家が出てくるが(遺稿がベストセラーになる)、キングの下積みも半端ではない。『キャリー』が認められた頃のキングは、デビュー当時、風呂なしアパートに住んでいた矢沢永吉みたいだ。本書は作家志望者に限らず、浮かばれないすべてのアーティストの励みになるだろう。ベストセラー作家は運だけではなれない。

★★★★☆(2002.1.17 白犬)


不眠症(上・下)
Insomnia  4-16-320170-X 4-16-320220-X
芝山幹郎・訳 文藝春秋 上下各3000円


 2001.6.30初版。妻に先立たれたあと不眠症に悩む老人ラルフ。やがて彼は幻覚に似た不思議な光景を見るようになる。見慣れた街や人々をつつみ込む色とりどりのオーラ。ある夜、彼は薄闇の街角に佇む不気味な生命体を目撃する。ハサミを持ったチビでハゲの医者――それは邪悪な「なにか」が迫り来る前兆だった。
「老人版IT」とはよくぞいったものだ。主人公ラルフは70歳。アメリカの老人はよく愛妻に先立たれる。やもめ暮らしの地味でとりとめのない生活の描写いい。粉末スープとか。かの国では多く食品が粉末で売られているようである。近所のガールフレンドにご馳走になるのはマカロニ&チーズ。全編を通してもっとも食用旺盛な場面で食べるのは、「チーズとマッシュルームのオムレツ」(できれば卵4つにしてくれ)にベーコンとソーセージとフレンチフライ(特盛り)の付け合わせ、チーズのデーニッシュ、コーヒーをブラックでたっぷり、それにオレンジジュースの大。日本だったらどうなるか。永谷園松茸の味お吸い物。近所の婆さんにたぬきそばをご馳走になり、もっとも食欲旺盛な場面では、フライ盛り合わせ(カツはできればヒレカツにしてくれ)にキャベツ特盛り、めし・味噌汁おかわり自由、お茶を土瓶ごとたっぷり、それにヤクルトってとこか。
 合計6000円の本を読んでそんなことばかり考えるわたしであった。円熟というより老練という感じします。読書の秋におすすめ。

★★★★(2001.9.2 白犬)


デスペレーション(上・下)
Desperation  4-10-219323-5 4-10-219324-3
山田順子・訳 新潮社/新潮文庫 上857円・下819円


 2000.12.1初版。
 ネヴァダ州の砂漠を突っ切る“アメリカ一寂しいハイウェイ”U.S.50。一人の警官が通りがかる人々を次々と拉致。彼らが幽閉されたのはデスペレーションという名の寂れた鉱山町。住民は警官の手で皆殺しにされていた。なんでわたしがこんなめに? 囚われ人それぞれの思いが錯綜する中、神に選ばれし少年デヴィッドと人知を超えたパワーとの死闘が始まる。
 恐いです。でも長いです。長すぎるっ。

「…この時期の作品で注目すべきことは、キングが作家としてはいうまでもなく、人間としても齢を重ねて成熟したことだ。その結果、従来よりも精神的な面を深く掘り下げるようになり、作品の純文学性が強くなっている」(解説 p.525)

 すいませんズル引用です。でも確かにそんな感じなんですね。しかもそこらへんを丁寧に読み込まないと、何がなんだかさっぱりわからなくなちゃうという、すごくたいへんな作品でした。わたしのキングは『図書館警察』あたりで終わってしまったのかも知れません。しくしく。

★★★(2001.2.27 白犬)

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last updated : 2006/10/16
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