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December 24, 2005

スティーヴン・キング『回想のビュイック8』(上・下)○

 ペンシルヴェニア州の田舎町にある州警察D分署。高校生のネッドがちょくちょく顔を出すようになったのは、不慮の交通事故で殉職した父の思い出にひたるためだった。やがて通信指令の仕事を手伝うようになったネッドは、分署のガレージで新車同様のビンテージカー、ビュイック8[エイト]を見つける。なぜここにずっと保管されているのか、だれの車なのか――父の親友でもあった分署長のサンディは、ネッドにビュイックのおそるべき来歴を語り始める。
 キング本人の交通事故のために刊行が延期されたという、いわくつきの作品。死亡説まで流れた事故が起きたのは本書の第一稿を書き上げたあとで、その瞬間を予見したとしか思えないようなシーンに関係者一同震え上がったというわけです。とまあ、これはキング自身が「なんらかの予兆だったとはまったく信じていない」と述べているように風聞の域を出ない。そんな尾ひれなんかどうでもよくなっちゃうくらい、本格的にこわい作品。いや、ほんとこわい。なにしろ相手はマシンなんですから。ガレージ周辺で起こる不可解な現象を、人々はただ見守るしかない。そしていつしか取り憑かれていることに気づく。それは殉職したネッドの父の知られざる物語でもあった。父の面影を残す若者に対する元同僚たちの思いには深く胸を打たれる。
 キングを読み続けてきてよかったと、しみじみ思った長編。いまや「過去の人」呼ばわりされることもあるキングだが、次作おおいに期待。

★★★★★(2005.12.3 白犬)

"From A Buick 8" by Stephen King 白石朗・訳 新潮社/新潮文庫 上705円・下629円 4-10-219337-54-10-219338-3


posted by Kuro : 01:09

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