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August 22, 2007

本多孝好『正義のミカタ 〜I'm a loser〜』●○

 2007.5.25初版。本多孝好久々の書き下ろし長篇。立ち読みブックレット(冒頭数ページ分の小冊子)まで配布するという力の入れように期待は高まる。
 いじめからようやく逃れて三流大学にもぐりこんだ主人公は、高校時代に自分をいじめた張本人と再会してしまう。そこを助けてくれた同級生につれられ、なんの気なしに「正義の味方研究部」に入部することになるが……。
 いじめられっ子が大学に入って仲間を得て、元いじめっ子に復讐するとかこらしめるとかいった当たり前の展開になるのかと思いきや、もちろんそんなことはなく、いいぐあいに期待を裏切ってくれた。ほろ苦くもあるが、今の時代これくらいキツくても現実に比べるとまだぬるいのかもしれない。

★★★★(2007.6.5 黒犬)


 大学四年のときにクラスメイトの金城一紀にほめられた『眠りの海』で第16回小説推理新人賞を受賞、おしゃれな二分冊が話題になった『真夜中の五分前』で第132回直木賞候補となった本多孝好の書き下ろし長編小説。
 高校でひどいいじめにあっていた蓮見亮太は、大学進学を機に生まれ変わろうと、同級生が誰も行かないはずの大学を目指して必死に勉強し見事合格。入学式直後のキャンパスで誰一人として知る者のいないしあわせをかみしめいていた矢先、彼はわが名を呼ぶおぞましい声を聞く。有無を言わさず蹴りを入れてきたのは、高校時代の悪夢の中心、畠田だった。一日五千円の見逃し料を要求され、大学をやめる決意をする亮太。そんないじめられっ子に救いの手を差し伸べたのは同じ新入生のトモイチだった。凶暴な畠田を一撃で黙らせたトモイチは、亮太を学内の「正義の味方研究部」に連れて行く。
「正義の味方研究部」の活動内容は、学内で起きた正義に反する諸問題の解決で、場合によっては実力行使もふくまれる。やられっぱなしだった亮太は、インターハイ三連覇のボクシング選手であるトモイチに素質を見抜かれ、正しい指導のもと着実に強くなって行く。この訓練の成果がじゅうぶんに発揮されるシーンがないのは残念だが、亮太の負け癖を克服するための精神修養だったと思うことにしよう。
 さて、そんな長い準備期間を経た中盤、亮太とトモイチの新入部員二人に、あるサークルへの潜入捜査が命じられる。ここらへんからがぜん本多孝好らしいシャープな展開となる。はあ、よかったよかった。仲間を得たことで自由と自信を取り戻した亮太は、このいっぷう変わったサークル活動を通じて「正義」を模索することとなり、ついにはじぶんなりの結論に達する。友達のいなかったやつは強い。元いじめられっ子のゆるぎない理屈に深く納得させられる。並行して語られる亮太の家庭生活や、気になる女の子とのエピソードもそれぞれに印象深い。読みごたえじゅうぶんの快作。

★★★★(2007.7.11 白犬)

双葉社 1500円 978-4-575-23581-4

posted by Kuro : 23:57

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