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August 21, 2007

江國香織『がらくた』○

 初出「小説新潮」2005年7月号〜2007年2月号。セレブな中年夫婦と帰国子女の、一般的には説明困難な関係を描く江國香織の最新長編。
 翻訳家の柊子は母桐子とバカンスで訪れたプーケットの超高級リゾートホテルのプライベートビーチで15歳の美海を見つける。美海は建築家でサーファーの父と来ており、滞在中、四人は何度か食事をともにする。その過程で柊子は美海の父と関係するが、東京に戻ってから会うつもりはもちろんない。帰国後、桐子柊子母娘と親しく付き合うようになった美海は、招かれて出かけた桐子の誕生会の席で柊子の夫、原に出会う。
 柊子とテレビマンである夫の原との関係は、常識的な夫婦のあり方とはおよそかけ離れている。原には女の気配が絶えないうえに、柊子の不貞をよろこぶどころか強要しようとさえする。そんな無体な男を失いたくがないためにあがく柊子。この一種のサドマゾ関係は、江國作品ではほとんどパターン化しているのだが、周辺事情の描き方が巧みなために、またかよとなかば呆れつつも読まされてしまう
 本作ではなんといっても美海であろう。学園生活にはぐれ、離婚した両親のあいだでやっかいな自分を持てあます十代の少女は、背徳のかおり漂うおとなの男に強くひかれる。美しい若鹿のような美海のきもちに余裕で応じる原。美海が原と二人きりだと思って行った中国料理店で、妻の柊子が待っていたことにちょいとスネちまうエピソードは秀逸である。物語はあっけない結末にいたるが、そこに悲しみはなく、むしろすがすがしい幸福感に満ちている。

★★★★(2007.7.13 白犬)

新潮社 1500円 978-4-10-380807-7


posted by Kuro : 23:10

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トラックバック時刻: August 22, 2007 09:42 PM

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