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July 21, 2007

角田光代『トリップ』●○

 2007.2.20初版。単行本は2004年2月刊。
 駆け落ちをすっぽかされた女子高生の「わたし」は近所に住む「すみれさん」と河原に寝ころぶ(「空の底」)。その親子を、ビデオ屋からの帰途、息子の手を引いて歩道からながめる「わたし」はLSDに依存している(「トリップ」)。そのふたりのあとをなんとなくつけてしまう「おれ」は、公園で中島精肉店のコロッケを頬張る(「橋の向こうの墓地」)。その男に、ひそかに“カベルネさん”というあだ名をつけている精肉店の女房「わたし」は14年前の結婚当初のことを思い出している(「ビジョン」)。
 おなじ町の中、とくに言葉をかわすこともなく、ただすれ違う。それぞれがそれぞれの人生を歩んでいる。その断片が10個。つながるでもなく、孤立するでもなく、おおきなドラマが生まれるでもなく、まったく波風が立たないわけでもない。そんな短篇集。

★★★☆(2007.3.30 黒犬)


 角田光代の連作短編集。初出「小説宝石」2000年〜2003年。単行本は2004年2月同社刊。東京近郊の街に暮らす幅広い年代の人々を描いた10編を収録。連作形式だが、共通する登場人物がストーリーを引き継いだり、意味のある補強をしたりはしない。一エピソード、一風景として存在する。ただし、主人公の言動に大なり小なり影響を与えていることは確かで、作者の絶妙なさじ加減によって見事にコントロールされている。
 薬物に依存する主婦の日常をスケッチした表題作「トリップ」のほかでは、ぱっとしない肉屋に嫁いだ女の心象を追った「ビジョン」、自己実現という呪縛から逃れられない女を意地悪たっぷりに描く「きみの名は」が印象に残った。

★★★★(2006.6.16 白犬)

光文社/光文社文庫 495円 978-4-334-74192-1


posted by Kuro : 16:29

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