« 熊谷達也『氷結の森』○ | Blog Top | 内田春菊『作家は編集者と寝るべきか』●○ »
July 16, 2007
クリストファー・プリースト『双生児』○
ハリウッドで映画化された『奇術師』(映画化名は「プレステージ」)で世界幻想文学大賞を受賞したクリストファー・プリーストの最新長編。英国SF協会賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作。
良心的兵役拒否者でありながら英空軍爆撃機のパイロット? いったいどうしてそんなことが可能なのか――英国首相チャーチルが部下にあてたメモに登場する謎の人物、空軍大尉J・L・ソウヤーについて調べていた歴史ノンフィクション作家グラットンのもとに、そのソウヤー本人が書いたという回顧録のコピーが持ち込まれる。みずからの家系も良心的兵役拒否の系譜を引くグラットンは、そこに秘められた物語を感じ取る――と、ここまでが第一部。
続く第二部はソウヤーの回顧録そのものである。ジェイコブ・ルーカス・ソウヤーには同じイニシャルを持つ兄弟がおり、二人は一卵性双生児である。回顧録は兄弟がボートの舵なしペア英国代表として1936年のベルリンオリンピックに出場したときのことと、ソウヤーが英空軍の将校となってからのことが交互に記され、彼が65歳で引退準備を始めるところで終わっている。このあたりでストーリーの方向性というか全体像をつかんだ人はおそらく、SFの作法に通暁したクロウトであろう。半可通のわたしは、大森望氏の懇切丁寧な解説がなければ、最初から迷子になったままグレちゃってたにちがいない。
作家グラットンのインスピレーションにはじまる物語は、同じイニシャルを持つ双子にいったん集約され、そこから、微妙に色や形のちがうパズルのピースをひとつずつはめ込んで行くかのように再構築される。
たゆまぬ集中力と、きりきりに冴えた思考力がないと、細大漏らさずに楽しむことなどとうてい無理なすごい作品。読者のやる気によるが、疑問を解決したうえでの二度読みを強くおすすめする。
★★★★☆(2007.6.13 白犬)
"The Separation" by Christopher Priest 古沢嘉通・訳 早川書房/プラチナファンタジー 2500円 978-4-15-208815-4
posted by Kuro : 00:06
trackbacks
このエントリーのトラックバックURL:
http://dakendo.s26.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/348
このリストは、次のエントリーを参照しています: クリストファー・プリースト『双生児』○:
» [読書]双生児/クリストファー・プリースト from でこぽんの読書日記
双生児クリストファー・プリースト 古沢嘉通 早川書房 2007-04-24asin:415208815X Amazonで詳しく見る楽天で詳しく見るbk1で詳し... [Read more...]
トラックバック時刻: July 27, 2007 08:22 AM
» 双生児(クリストファー・プリースト) from juice78
双生児 作者: クリストファー・プリースト, 古沢嘉通 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2007/04 メディア: 単行本 ひゃーもう面白い面白い面白... [Read more...]
トラックバック時刻: August 8, 2007 02:48 AM
» 双生児と戦争 クリストファー・プリースト著 「双生児」 from 本読め 東雲(しののめ) 読書の日々
クリストファー・プリースト著
「双生児」
双生児クリストファー・プリースト (2007/04)早川書房この商品の詳細を見る
かなり評判に... [Read more...]
トラックバック時刻: December 9, 2007 11:21 PM
comments
TBさせていただきました。
評判どおりで面白かったです。
正直重厚すぎて歯が立たない感じはしましたが・・・。
虚実入り乱れて、本当に不思議な魅力に満ちている一冊でした。
TBさせていただきました。
評判どおりで面白かったです。
正直重厚すぎて歯が立たない感じはしましたが・・・。
虚実入り乱れて、本当に不思議な魅力に満ちている一冊でした。
投稿者 タウム : December 9, 2007 11:20 PM
コメントをどうぞ。