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July 15, 2007

熊谷達也『氷結の森』○

 初出「小説すばる」2005年5月号〜2006年10月号。2004年に第17回山本周五郎賞を受賞した『相剋の森』、そして2004年の131回直木賞受賞作『邂逅の森』に連なる〈森シリーズ〉マタギ三部作完結編。
 舞台は20世紀初頭の樺太・ロシア。日露戦争から帰還した元マタギの柴田矢一郎は、銃を捨て、故郷を離れて樺太の鰊場や材木の伐採現場を転々としている。過去のしがらみから矢一郎をつけ狙う松岡辰治が樺太に渡ったという噂を耳にしてから五年。凍てつくタイガの森で、ついに辰治の標的となった矢一郎は、少数民族ニブヒの長ラムジーンの助けを借りて逃げのびる。が、その一方で辰治の仲間がラムジーンの愛娘を連れ去る。娘の行方を追って犬橇でロシアに渡る矢一郎。革命前夜の混乱のなか、彼はふたたび銃をとる。
 もうね、矢一郎かっこよすぎ。タフで、ストイックで、ここいちばんというときに確実に決める。悪条件はあたりまえ。過酷な自然環境でさえ彼の晴れ舞台となり果てる。そんなスーパー・マタギが銃を捨てた事情に、樺太での義理人情がからむ。故郷秋田でのいざこざに端を発する矢一郎の漂泊の旅は次第に明確な目的を持ちダイナミックに展開して行く。マタギと同じく狩猟をなりわいとするニブヒの民をはじめ、彼を取りまく当時を象徴するような人々もそれぞれに印象深い。完結編にふさわしい一級の冒険小説である。

★★★★☆(2007.6.12 白犬)

集英社 1900円 978-4-08-774842-0

posted by Kuro : 02:30

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