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May 28, 2007

絲山秋子『ダーティ・ワーク』○●

 初出「小説すばる」。『沖で待つ』で芥川賞受賞作を受賞した絲山秋子初の連作短篇集。各篇の人間関係が重なる7篇を収録。カバーが破けたように見える装幀かっこいい。グレーに見返しの赤が効いている。表題をはじめ、各篇のタイトルを見てピンとくる人はかなりのストーンズファンにちがいありません。
 あいかわらず冴えている。短篇になるといっそう際だつコクとキレ。さすが天才を標榜するだけのことはある。次作おおいに期待。
 メモがわりに、おもわず爆笑してしまった部分を引いておきます。

 遠井が、神原美雪の名前を忘れるわけがない。
 彼女は大学時代、同じクラスにいた。美人ではなかった。牛に似ていた。笑う牛/ラ・ヴァッシュ・キ・リのチーズのパッケージに描いてある赤い牛にそっくりだ。誰にも言ったことはなかったが彼はそう思っていた。頭はむちゃくちゃ良かった。博士課程まで進んだ。彼はいつも彼女にノートを借りていた。服装はダサかった。ノートを返しに家に遊びに行くと、とっくりのセーターの上に半纏を着ていた。そして牛のような声で自分のことを「オレ」と言った。もてるわけがなかった。
 しかし遠井は彼女にふられた。(「moonlight mile」p.63)


★★★★☆(2007.4.6 白犬)


 2007.4.30初版。初出「小説すばる」2005年から06年にかけて掲載された連作短篇集。そうか、連作短篇集ははじめてだったのか。
 タイトルにThe Rolling Stonesの曲名を借りた7篇。ギタリスト熊井は、昔バンドを一緒にやっていたTTのことを今でも思い出す。

熊井は、スタジオミュージシャンとして本格的な活動を始めるまで、TT以外のベースと組んだことがない。(p.11)
 TTはキース・リチャーズが好きで、彼女はミック・ジャガーが好きだった。彼女とTTの違いというのはその程度で、他にあるとすれば熊井が社会に対して無関心であり続けたことくらいだった。(p.12)

 といって、この本は熊井とTTだけの物語ではない。彼ら周辺の人々の物語でもある。姉の結婚式にブーケをつくってやろうという妹や三人の女とつきあっている男や花屋をやりながら写真をとりつづける男なんかの話でもある。どいつもこいつも病気をかかえており(肉体的にだったり精神的にだったり)小市民で(反乱を起こすとしても、せいぜい男と別れるとか会社をズル休みするとか)、ありふれた事件しか起こらない。
 どうってことのない話ではあるのだけれど、どこかほっとする。
 悪くないやね。うまいやね。

★★★★(2007.5.15 黒犬)

集英社 1365円 978-4-08-774853-6

posted by Kuro : 23:18

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