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March 31, 2007

ポール・オースター『ティンブクトゥ』○

 テレビCMのサンタクロースに啓示を受け、愛の伝道師となった家なき詩人ウィリー。ボルチモアの街角で死を迎えようとしているウィリーのかたわらで、長きにわたる浮浪の日々を回想する相棒ミスター・ボーンズの正体は一部コリー、一部ラブラドル、一部スパニエル、残りはイヌという名の謎。ミスター・ボーンズは知っていた。来世というのが実際にある場所だということを。そしてそこがティンブクトゥという名であることを。
 故米原万里氏の著書に『打ちのめされるようなすごい本』というタイトルの書評集があるが、わたしは本書に、まさに打ちのめされてしまった。
 動物を語り手にすえた作品は多々あるが、本書は犬といういささか都合のよい存在を通して語られる社会風刺ものではない。人間の「方法」を身につけた犬の内なる物語である。人間の言葉と感情を理解するミスター・ボーンズの思索は深く、詩情にあふれ豊かだが、彼の声を聞くことのできる者はだれもいない。また主人が社会的弱者であるために突きつけられる現実は過酷である。
 やがてミスター・ボーンズはウィリーを失い、新たな運命の旅に出る。行く先々でさまざまに呼ばれ、愛すべき人々に寄り添いつつも、ティンブクトゥの住人となったウィリーと対話を続けるミスター・ボーンズ。そのけなげさと、彼が得た解答にわたしは何度でも泣けてしまうのである。

★★★★★(2007.3.2 白犬)

"Timbuktu" by Paul Auster 柴田元幸・訳 新潮社 1600円 4-10-521711-9


posted by Kuro : 17:53

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