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February 02, 2007

阿部和重『ミステリアスセッティング』○

 2006年3月から携帯電話の電子書籍サイトとasahi.comの「クラブA&A」で連載。05年に『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞を受賞した阿部和重の長編。
 作詞家をめざして東北から上京してきた19歳のシオリ。従順で引っ込み思案。それでいて風変わりなシオリのきもちをわかってくれるのは、ペットショップのインコたちだけだった。そんなさびしい日々を送るシオリは、ある日、ポルトガル人のメル友、マヌエルに誘われてロックバンドのマネジャーになる。だが、いざ始めてみるとバンドのメンバーたちに金ヅルとして利用されるだけだった。間もなく実家が破産、さらに通っていた音楽学校が運営上の問題から閉鎖され、シオリは行き場を失う。バンドを脱けることを決意し、ひとり暮らしの住まいにひきこもるシオリを訪ねてきたのはマヌエルだった。マヌエルはシオリを酷い目にあわせてしまったことを詫び、きゅうに帰国することになったと告げる。  冒頭にネタバレ承知とおぼしき解説が出ているので書いてしまうが、もって生まれた特異な才能と性格のためにやたら不運な女の子が、スーツケース型核爆弾をあずかってしまうという話である。シオリの人間関係をめぐるあれやこれやはいかにも今風だし、全体を通じて語り口は軽いが、物語をひとりの語り部に託すことで、寓話的な奥行きのある作品に仕上がっている。
 携帯サイトを発表メディアに選んだのは、文体を変えたかったからだという。「小さい画面で読ませるには、文章を短く、単純化しなければならない。一癖も二癖もある男ばかりをずっと書いてきたが、無垢で純粋な少女を主人公に据えた」と2007年1月12日の朝日新聞夕刊の新刊宣伝記事に出ている。本作は、職業作家としての十数年でたまりにたまった毒を流す“デトックス”だとご本人。次作おおいに期待。最終的には三部作になるという『シンセミア』の続編をはやく読みたい。

★★★★★(2006.12.26 白犬)

朝日新聞社 1500円 4-02-250244-4


posted by Kuro : 23:47

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