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January 11, 2007

永井するみ『ダブル』○

 96年に農業ミステリー『枯れ蔵』で第1回新潮ミステリ倶楽部賞を受賞した永井するみの長篇サスペンス。「小説推理」05年4月号から06年5月号に連載された同名作品に加筆、訂正。
 江戸川区の路上で二十代の女がトラックにはねられて死亡した。目撃証言などから警察は事故と他殺の両面から捜査を開始するが、その過程で被害者の恋人が疑われる。週刊誌記者の相馬多恵が事件に興味を引かれたのは、被害者が不快をもよおすほどのブスだったからだ。しかもデブ。同情ではなく嘲笑を浴びたまま忘れられ去られてしまいそうな事件を追い始めた多恵は、ひとりの妊婦にたどりつく。柴田乃々香。二十九歳。被害者と同じ特殊な携帯ストラップを持つ女。彼女が江戸川区の事故の新聞記事を切り抜いて大切に保管していることはだれも知らない。
 本文中ではデブデブブスブスと情け容赦ないところを、本書の宣伝文句などでは「特異な容貌」などとしているところがカワイイというか逆効果というか。
 もしかしたらすごく気だてのいい女だったかもしれない。頭もよかったかもしれない。なのにデブでブスというだけで、まるでそれが人格そのものであるかのように結論づけてしまう世間と男たち。マスコミという男社会のなかでひとり気を吐く多恵が出会ったのは、女の権化ともいうべき乃々香だった。このまるでタイプのちがう女二人の腹のさぐり合いが秀逸。見かけも言動もおとなしそうなくせに最終的には我を通す。乃々香はそんな女である。ほかにも痴漢の疑いをかけられた冴えない男、無軌道な女子高生、コミュニケーション不全気味のシステムエンジニア、優しい旦那、エロボケじいさんなどなど登場人物は皆、表面上ある種の典型であるが、多恵によって明かされるそれぞれの実像は意外にも平凡で人間らしいやさしさに満ちている。先入観ほど正しい判断をさまたげるものはないのかもしれない。できのいいサスペンスであると同時に、若き女性記者の成長譚としても成功している。買って損なし。

★★★★☆(2006.10.23 白犬)

双葉社 1800円 4-575-23561-X

posted by Kuro : 01:28

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