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December 12, 2006

金井美恵子『快適生活研究』○

 初出「小説トリッパー」2002年夏季号〜2006年夏季号。
 金井美恵子の著作『小春日和』『彼女たちについて私の知っている二、三の事柄』『文章教室』『道化師の恋』の登場人物たちが(まことに都合よく)からまり合う、ファンにはうれしい連作短篇集。例によって装丁・装画・レイアウトは姉の金井久美子。二十数点にもおよぶカラー印刷のお作品にじゅうぶんすぎるほどのスペースを割いたゴージャスなつくりとなっている。
 あとがきの、

私の小説に仮に欠点があるとすれば、架空の登場人物たちをつい愛してしまい、『日々雑録』のようなエッセイを書くときの「正確な悪口」性が文体と細部に凝るあまり、デリケートになることかもしれません。(p.275)

 というのにはシビれましたよ。な〜に言ってるかね。ハハハハ
 金井美恵子がいうところの「正確な悪口」の大部分はいわれのない悪口である。本人に罪はない。たとえば本書だと、各編にしばしば登場する、建築家のEさんが発行する個人通信のタイトルを「よゆう通信」としたようなところ。「よゆう」にするか「ゆとり」にするか大まじめに考え抜かれたタイトルで、その経緯まで細かに書き込まれている。その「よゆう通信」がどういうものかというと、

A4サイズのコピー用紙に横組のワープロ打ち原稿を裏表にプリントして三枚、コピーしてホッチキスで左の上のところを綴じた手軽なもの(p.101)

 に、還暦をむかえたじぶんの近況とか思い出話とか趣味のことなどが、若い頃に詩作などで鍛えた筆で綴られているとおぼしい。帯の文句「鈍な自己愛」は冴えている。本人が鈍であればあるほど悪口の精度は増すのである。愛とアイロニーと笑いに満ちた人様の日常。おすすめ。

★★★★★(2006.10.21 白犬)

朝日新聞社 1700円 4-02-250217-7


posted by Kuro : 00:41

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