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December 04, 2006

堀江敏幸『いつか王子駅で』●○

 2006.9.1初版。単行本は2001年6月刊。
 タイトルをひとめみただけで買ってしまうことはそうそうないのだが、この本はその希有な例のひとつである。読んでみてどれほどつまらなかろうと、どれほど難解であろうと、このタイトルならば許す。あの有名なジャズナンバーと都電荒川線の(京浜東北線や地下鉄南北線ではなく)王子駅が結びつくなんて、誰が考えつくだろうか。しかもそれを小説のタイトルにしてしまうなんて。
 で、そういう場合は往々にして期待はずれに終わるのだが、この小説のばあいはそうでもなくて、なんというかじつに、しっかりと、ブンガクしているのであった。そして、市井の人々の暮らしと競馬と文学とがみな同じ地平で語られていることに、なんとも不思議な安堵感をおぼえるのでありました。

★★★★(2006.9.30 黒犬)


 ラ・フォンテーヌの寓話を効果的に使った『熊の敷石』で第124回芥川賞を受賞した堀江敏幸の初長編小説。タイトルは、ずばり「いつか王子様が」をもじったものだそうです。しまった、やられた。ハハ。
 物語の舞台は都電荒川線の王子駅界隈。大切なひとに実印を届けに行く――そう言い残して姿を消してしまった印章彫りの正吉さん。時間給講師の〈私〉は行きがかり上、彼の忘れ物をあずかることになる。なじみの居酒屋、古書店、娘の勉強を見てやっている町工場の経営者の家と、〈私〉の立ち回り先は地味もいいところだし、折々に挿入される文学談義もかなりシブい。だけども冒頭からたちまち引き込まれ、あっという間に読了。文芸とはこういうものだとしみじみ思う。次作おおいに期待。
 蛇足ながら、「猫のしたい」と「トム木挽き」にはシビれました。

★★★★☆(2006.10.27 白犬)

新潮社/新潮文庫 362円 4-10-129471-2

posted by Kuro : 00:16

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