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October 02, 2006

篠田節子『夜のジンファンデル』●○

 2006.8.30初版。6篇収録の短篇集で、アンソロジー(2005年刊)に書かれた1篇以外は、初出「小説すばる」。いちばん古いものは91年に発表されたもので、どうも《お蔵出し》っぽい感じがしてしまう。内容も、ホラー、サスペンス、恋愛ものと統一感がぜんぜんないし。
 というわけで、まあファン向けですかね。著者のいやらしさ(褒め言葉です)が発揮されている冒頭の「永久保存」と巻末の「コミュニティ」はよかった。

★★☆(2006.9.20 黒犬)


 初出「小説すばる」など。ジンファンデルはワイン用の葡萄の品種。表題作ほか6編が収録されているが、友人の夫とのひそやかな恋を描いたこの表題作がもっともスリラー色が薄い。ほかの5編はけっこうこわい。足元からじわじわと立ちのぼってくるようなこわさとでもいうか。
 全篇なにかをあきらめた人を主人公に据えている。たとえば汚職事件のあおりで左遷された役人、長きにわたる不倫関係に終止符を打った女。なかでも印象深いのが、経済的な理由から郊外の団地に移り住んできた夫婦を描く「コミュニティ」である。ひどいアトピーを患う幼い息子の看病のあげくに商社をリストラされた妻は、団地内の近所付き合いになかなかなじめない。かつての親友たちは潮が引くように去って行ってしまった。だが、昼間から寄り集っては噂話に興じる主婦たちを蔑んでいた妻が、ある日を境にかわる。女たちのほほえみの正体に夫が気づくところなんかホント、いい仕事してますネェ。女性作家ならではの観察眼が冴えわたるスリラー作品集。秋の行楽のおともに。

★★★★(2006.10.24 白犬)

集英社 1500円 4-08-774808-1

posted by Kuro : 01:30

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