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July 09, 2006

青柳恵介『風の男 白洲次郎』○●

 日本国憲法誕生の現場に立ち会い、吉田茂の懐刀と言われた白洲次郎の生涯。終戦直後のことを書いたノンフィクションなどで名前を見かけはしていたが、「韋駄天お正」こと白洲正子のダンナという認識だった。ここのところ「日本一カッコいい男」としてもてはやされているのは『国家の品格』あたりからの流れだろうか。2006年4月5日のNHK「その時歴史が動いた」では「マッカーサーを叱った男〜白洲次郎・戦後復興への挑戦」が放映されている。
 いや、ほんとカッコいいです。カッコよすぎ。明治35年、兵庫県芦屋生まれ。身長185センチ、スポーツ万能、ファッションセンス抜群、ケンブリッジ大卒で英語ぺらぺら。洋行帰りってやつですね。また、すごいエンスーでもあり、英国ではベントレー、ブガッティを乗り回し、80歳になってもポルシェを乗り回し――とまあほかにもいろいろあるが、こうした表面上のことは、彼が戦後日本にもたらした功績からすれば些細なことであろう。
 夫妻と親交の深い人物が書いただけあり、いいとこ取りのほめちぎったような内容だが、さほど嫌味でもない。そもそも「出」がちがうんだからしょうがない。この元祖ちょい不良オヤジの人生は、エスタブリッシュメントとかクラスという言葉抜きでは語れまい。ちょっとやそっとのことじゃぜったい、真似できませんって。

★★★★(2006.6.16 白犬)


 2000.8.1初版、2006.5.30第17刷。単行本は1997年刊。
 最近なぜだか話題の男白洲次郎。白洲正子の夫ということは知っていても、どういうことをした人なのかということは知らなかった。ところがあちこちで話題になっている。半藤一利の『昭和史』にも名前が出てくる。で、読んでみた。
 金持ちのボンボンで問題児(なにしろ旧制中学時代から外車――当時は国産車はなかったから全部外車だけど――を乗り回していた)、英国に追い払われてケンブリッジ大学を卒業し、学者になろうと思っていたら生家が倒産したため帰国。それでもなんやかやと仕事はあり、吉田茂とも深く付き合い、戦争になると農家に転身。戦後は終戦連絡事務局でGHQとの交渉に奔走し、初代貿易庁長官に就任。通産省誕生の立役者で、東北電力会長も勤める。そこらへんまでで50歳ぐらい。死んだのは1985年で83歳だから、老後(というのか?)はなにをしていたのやら。
 なんにせよ、やたら精力的な人だったようだ。外国(英国)かぶれ、といえないこともないだろうが、少なくとも「特権」と「責務」の両方をきちんと認識していた人なのだろうなあと推測する。最近は「特権」ばっかり欲する人間が(政治に限らず)多すぎるもんね。そういう点では新鮮。新鮮に思えてしまうところが現代日本のナサケナイところなわけですが。
 政治や経済の最前線で活躍した話もいいんですが、戦争中とっとと町田にひっこんで農業に専念した話とか、軽井沢ゴルフ倶楽部の運営の話とか(マナーにはえらくうるさかったらしいが、キャディさんたちにはとても好かれていたそうな)、老後の最後のイギリス旅行で英国時代の親友と別れるシーンなんかが、いいなあと思いました。

★★★(2006.6.28 黒犬)

新潮社/新潮文庫 400円 4-10-122721-7

posted by Kuro : 12:22

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