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April 12, 2006

石田衣良『愛がいない部屋』●○

 2005.12.20初版。初出「小説すばる」2004.5月号から2005.11月号まで隔月に。『スローグッドバイ』『1ポンドの悲しみ』の系列に位置する、「小説すばる」掲載の短篇集。前2作と違うのは、今回は神楽坂の高級マンション“メゾン・リベルテ”を舞台にしているということ。
 地上33階建て、1階には花屋、本屋、コンビニ、ファミレスがあり、最上階には展望室とゲスト用宿泊施設がある。そこに住む男女、あるいは家族の人間模様。19Fには男女のルームメイト、25Fには満たされない人妻、6Fにはマンションを購入して自分の城を持とうとする独身女、8Fには高校中退でニートな息子のいるサラリーマン世帯、19Fには新しい出会いを得た60代の未亡人、12Fには不思議な“奉仕”をする愛人、27Fには男遊びに走る人妻、30Fには高齢出産(なの?)の母親、居住階は不明だけどセックスレスでマッサージにイヤされる人妻、これまた居住階不明のDVに苦しむ人妻と32Fに住む70歳の老女。ニート息子とその父親以外は、女性が主人公の短篇ばかり。
 いかにもステキな高級マンションだけど、住んでいる人にはいろいろ悩みがあるのよ、というコンセプトのようだ。しかしこの高級マンションがあまりうらやましく思えないのはなぜだろう。やっぱ、テナントと居住スペースの入り口は別々でなきゃ嫌でしょう。ってそういうことじゃないか。いやいやでもそれってけっこう重要なのでは。しかも1Fの共有スペースというかテナント利用者も使えるようなところにコルビジェのグランコンフォール(白! この人ほんとコルビジェが好きだよね)って、あまりうれしくない。それどころか、どこの成金、という感じ。
 グランドホテル形式はいいのだけれど、多少かかわってくるのが“隅の老女”だけというのもちょっとさびしい。もうすこしあれこれ工夫できたように思う。
 安定はしているが、冒険が足りない、という印象でした。

★★★(2005.12.30 黒犬)


 初出「小説すばる」2004年5月号〜2005年11月号。『スローグッドバイ』『1ポンドの悲しみ』に続く石田衣良の恋愛短編集。表題作ほか10篇を収録。3冊ともきっちり10篇ずつなんですね。コンスタントなお仕事ぶりです。
 東京・神楽坂の地上33階建てのタワーマンションに住む男女の風景を描く。10篇すべての登場人物が同じマンションの住人なんです。公開緑地を広めにとったなかなかイカすマンションで、一階にはオープンカフェと本屋と花屋とファミレスとコンビニが入っており、建物中央の広場は高さ百メートルはある吹き抜け天井。住人用に白のコルビジェが置かれています。最上階には展望室と来客用の宿泊施設があります。高級感満点です。管理費高そうです。
 細かいことはさておき。
 この10篇すべてを恋愛小説としていいものかどうか。そもそも表題作からして「恋愛」にはほど遠い。わたしはむしろ色恋以外の、たとえば家族愛を描いた作品をおもしろく読んだ。ニートの息子を持つ父親の心情を描いた「ホームシアター」など、重松清も真っ青の出来である。全体では、赤ん坊と二人きりで過ごす母親の閉塞感を見事に描いた「十七カ月」がとくに印象に残った。

★★★★☆(2006.3.14 白犬)

集英社 1500円 4-08-774790-5

posted by Kuro : 00:10

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