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March 12, 2006

天童荒太『包帯クラブ』●

 2006.2.10初版。天童荒太6年ぶりの書き下ろし。少年少女向け癒し小説(なんじゃそりゃ?)。
 語り手は関東の地方都市に住む女子高校生、ワラ。両親は離婚しており、工場で働く母親と弟との三人暮らし。ある日、病院で出会った少年とのやりとりがきっかけで、ささやかな〈活動〉を思い立つ。誰かが傷ついた場所に行って、そこに包帯をむすぶ。そして傷ついた心から流れ続けている血を止める「包帯クラブ」。
 物語は、十代の若者たちが、自分たちのおかれた現在の状況をなんとか打開しようともがく姿と、その彼らがおとなになって、なにをしているかを淡々と綴っていく。いかにも天童荒太らしい。
 おとなになった彼らがあまりに優秀すぎるのと、ストーリー的にも善意にみちあふれた楽観主義的なところが気になったが、まあ少年少女を絶望のどん底に突き落とすこともないか。
 がんばればなんとかなる、という考え方を信奉するのがいいのか悪いのか、なんともいえないけれど。ただ、迷路に入ってしまっている若者にとってはなにかの――遠く海のかなたでぼんやりと光っている灯台程度の――手助けに、この本はなるかもしれない。

★★★☆(2006.3.5 黒犬)

筑摩書房/ちくまプリマー新書 760円 4-480-68731-9

posted by Kuro : 03:43

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comments

TBありがとうございました!
確かに楽観主義的な物語だったかも知れませんね。
細かな不満はあるけれど、全体を通してみてみると、
不思議と説得力があったので、やっぱり天童荒太さんだ!
ちくまプリマーはあなどれないっ!なんて思いました。

投稿者 ましろ : March 12, 2006 04:43 PM

ましろさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

天童氏の純粋というか性善説的なところが(「あふれた愛」のような)抽出された作品のように思いました。薄汚れたオトナたちは別にしても、若い人たちには必要な世界なのかも、と思うので、そこにケチをつけようとは思いませんけどね。
鬼畜で邪悪な(笑)天童荒太も、いつかまた見てみたいような気もしますが。

ちくまプリマー新書や理論社の「よりみちパン!セ」など、安くて手をのばしやすい良質の本が頑張ってくれるといいですねえ。

投稿者 黒犬 : March 12, 2006 06:04 PM

こんばんは!TBありがとうございました。
確かに美しく描かれすぎかな?という感もありましたが、
対象が少年少女ですからこれはこれで良かったのでしょうね。
常に模索状態にある彼らにはこれくらいのハッキリした描き方のほうが
わかりやすくていいのかな、とも思いました。
大人の私でも沁みわたる作品でした。

TBさせていただきました。

投稿者 リサ : April 2, 2006 11:32 PM

リサさん、こんばんは。
ちまたにはダメオヤジ、ダメオバサンが満ちあふれていますから、ダメ子供、ダメ少年少女がいてもしかたないのでしょうが、彼らのなかの一部でもこういう小説にふれて、がんばろう、と思えるといいなあと思いました。

投稿者 黒犬 : April 3, 2006 01:15 AM

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