« 甘糟りり子『みちたりた痛み』○● | Blog Top | 天童荒太『包帯クラブ』● »

March 12, 2006

浅倉卓弥『君の名残を(上・下)』●

 2006.2.1初版。単行本は2004年6月刊。第1回の「このミステリーがすごい!」大賞を『四日間の奇蹟』で受賞した浅倉卓弥の第2作。

「そこらじゅうで泣きました」
 ――オセロ・松嶋尚美さん(タレント)(上巻帯)

 泣かないって(笑)。感涙だの慟哭だの感動だのといった文字が帯にあるので、その路線なのかなあ嫌だなあと思いつつ読み始めた。全然違う。ひとつも泣かなかった。が、これはおもしろい。
《タイムスリップ輪廻転生ファンタジー》なんてむちゃくちゃなレッテルがあたまのなかを駆けめぐりましたが、ここは素直に(下巻の帯にあるように、《浅倉版「平家物語」》でよろしい。
 剣道部で活躍するふたりの高校生、友恵と武蔵、そして友恵の親友の弟志郎は、ある雨の日に忽然と姿を消してしまう。友恵が目をさますと、そこにいたのは見知らぬ少年だった。見知らぬ景色、見知らぬ時代に放り出された友恵は、どうやって生きていけばいいのか――。
 なかなかダイナミックな滑り出しで、物語は動いていく。「平家物語」「義経記」の世界だから、時代がどうなっていくかは読者にはわかっている。しかし現代から過去へとばされた登場人物たちには詳細を知るすべはない。かれらは再び会えるのか、会えるとするならどういう状況で、と興味はつきない。
 冒頭の「序」と最後の「結」にはさまれた本編は太い流れのようで雄大で、一歩間違えればハチャメチャになるところをうまく抑制してある。すべてが終わったあとに迎えるエピローグ「結」で、つかのま停止した時間がまた動き出す。説明するのが難しいが、よくできている。
 これを読んでから、すでに世にある平家・義経関連の本を読むのもまた楽しいかもしれない。

★★★☆(2006.2.20 黒犬)

宝島社/宝島社文庫 上・下各743円 4-7966-5075-X4-7966-5077-6

posted by Kuro : 03:25

trackbacks

このエントリーのトラックバックURL:
http://dakendo.s26.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/184

このリストは、次のエントリーを参照しています: 浅倉卓弥『君の名残を(上・下)』●:

» ● 君の名残を 浅倉卓弥 from IN MY BOOK by ゆうき
君の名残を浅倉 卓弥 宝島社 2004-06-15by G-Tools ★★★★☆ 幼馴染みの白石友恵と原口武蔵は、それぞれに男女の剣道部の主将を務め... [Read more...]

トラックバック時刻: March 12, 2006 10:39 PM

» 君の名残を from 読書感想文 と ブツブツバナシ
「君の名残を」浅倉卓弥 武蔵・友恵・志郎の3人はある嵐の夕方姿を消す。 3人は、それぞれ800年前にタイムスリップし、 その時代の人物になり、... [Read more...]

トラックバック時刻: March 14, 2006 05:53 PM

» 『君の名残を』 浅倉卓弥 from *モナミ*
『君の名残を』 著:浅倉卓弥幼馴染みで、それぞれに高校の男女の剣道部の、主将を務める白石友恵と原口武蔵は、下校途中、落雷に巻き込まれ、そのまま消息を断った。2人... [Read more...]

トラックバック時刻: April 13, 2008 10:06 AM

comments

コメントをどうぞ。




保存しますか?