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March 11, 2006

甘糟りり子『みちたりた痛み』○●

「ENGINE」連載+書き下ろし。甘糟りり子の東京レストラン・ストーリーズ。赤と千鳥格子を使った装幀おしゃれ。
きらびやかな都会の夜にちりばめられた、あやふやな恋、苦い野心、せつない男と女の物語。
 登場店は「オテル・ドゥ・ミクニ」「アッピア」「楽亭」「更科堀井」「中国飯店(六本木店)」「アロマフレスカ」「サルヴァトーレ」「ワン・アイド・ジャック」「ニューオータニSATSUKI」「ウエスト」「タイユバン・ロブション」「キャンティ飯倉店」「ブルディガラ」「ツッカベッカライ・カヤヌマ」「イゾラ」「ザ・ジョージアン・クラブ」「ロオジェ」「モレスク」。つまりそこら辺の話です。この本の面白さは、そこら辺の土地柄みたいなものを知ってる知らないにかなり左右されるかもしれない。著者ご専門の自動車やブランド品も然り。だからといって、むかし流行ったカタログ小説とはひと味違う。たたき上げのワインバー経営者、正博と、映画プロデューサーの大沢いい。

★★★☆(2002.3.11 白犬)


 2005.12.15初版。単行本は2002年2月新潮社刊。新潮文庫には入れてもらえなかった模様。その決断はただしい、と俺は思った。
 まあそもそも女性向けの連作短篇集なのだろう。どこで女性向け男性向けの線引きをすればいいのかわからんが。
 八つの実在するレストラン名をタイトルにした恋愛小説集、といういかにもバブリーな狙いの本。21世紀とは思えない。ああ、でもITバブルとかもあるから、こういう世界もきっとあるのでしょう。どれもどこかできいたことのあるような話ばかりだったけれど。
 頽廃を切り取った小説というのもいいのだけれど、それならそれでもうちょっと文章にも気をつかってほしい(結局この手の小説は、いつもそこで嫌気がさしてしまう。みなさん文章下手すぎ)。

 咲子は自分の頬に大量の涙が流れているのにやっと気が付いた。(文庫p.112「ウエスト」)

 作品の締めの一文である。こういうところで、しかも涙を形容するのに〈大量の〉なんて言葉をつかってしまう無神経さ。

 白金に位置するイゾラは、ピッツェリアにしてはいい値段を取ったが、味覚も雰囲気も評判の店だった。(同p.179「ブルディガラ」)

〈いい値段を取〉るという言いかたはおかしくないか? むろん日常会話ではそういうだろう(それでも普通は「あのお店、いい値段するわよね」ぐらいか)。取った取られたってそんな殺伐とした表現されてもな。それに味覚が評判ってどういうこと? だれの味覚が評判なの? シェフの? ようするに「値段は高いが、味がよく、雰囲気もいい」ということをいいたいのだろうけれど、気取って書こうとするからこういうおかしな文章になってしまう。
 ワインと宝石とセックスにしか興味のないおばかさん向け(わはは、言い過ぎか)。そういう人が本を読むとも思えないけどね(もっと言い過ぎか)。

×(毒)(2006.1.20 黒犬)

新潮社 1400円 4-10-444802-8/講談社文庫 514円 4-06-275261-1

posted by Kuro : 16:11

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