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March 11, 2006

平安寿子『グッドラックららばい』○●

 たいらあずこ。アン・タイラーに触発されて小説を書き始めたそうです。99年「すばらしい一日」で第79回オール讀物新人賞受賞。
 片岡家は信金勤めの父信也、母鷹子、そして積子と立子の四人家族。物語は母鷹子の家出に始まる。長女積子の高校の卒業式に出席した帰りに、夫の勤務先に「今からちょっと家出します」と電話をした上での突然の家出である。平静を装うべく努力する信也と淡々した積子とは対照的に、大騒ぎをする次女立子。立子に泣きつかれてやってきた伯母が事態の収拾を図ろうとするが、鷹子は帰らず。帰らないもなにも、そのままの状態が20年続くのである! そんな鉄砲玉主婦の鷹子と、残された3人のそれぞれの20年間を綴った、ネオ・ファミリーロマン。
「家族回帰」などという、おためごかしのスローガンが声高に叫ばれる昨今、これはすばらしい。快作、いや傑作といっていいかもしれない。バラバラだってだいじょうぶ。家族は「する」ものじゃない。平安寿子は作中で、積子の若い恋人にこう言わせている。

「家族ってうっとうしいよ。押しつけがましくてさ。いろんなことが要求されるじゃない。血がつながってるだけなのにさ。いい成績とれ、面倒を起こすな、親を尊敬しろ、一人でちゃんとしろ、でも、家族の誰かがダウンしたら心配しろ、面倒みろ、おまえは家族なんだ、家族のことを忘れるな。あーあ、自分勝手だよね、みんな」(単行本p.382)

 物語のボリュームからすれば、いささか安直なせりふで興ざめだったりもするが、男子高校生に言わせたことでなんとか切り抜けている。そうだよね、誰もが都合のいいときだけ「家族」を持ち出す。そんな「〜ねばならぬ」「〜すべき」に蹴りを入れる、著者渾身の書き下ろし、おすすめ。

★★★★☆(2003.1.25 白犬)


 2005.6.15初版、2006.1.20第4刷。単行本は2002年7月刊。平安寿子の出世作。読みを「あずこ」から「あすこ」に変えたらしい。単行本刊行当時も話題になっていたような気がするが(「本の雑誌」で目黒孝二が褒めていたような)、文庫化されたのを機会に読んでみた。
 うちを飛び出したお母ちゃんと留守番を余儀なくされたお父ちゃんおよびふたりの娘の奮闘記。プチ家出、なんて生やさしいものではない。中学生だった次女が高校に進学し、結婚し、出産し、離婚して出戻っても、なにしろ戻ってこない。20年、かくも長き母の不在である。
 お父ちゃんの姉は、あんなのとはとっとと別れろといい、結婚相談所を勧めたりもするが、信用金庫に勤め、動かざること「文鎮」のごとしな父は動じない。信頼なのか夫婦愛なのか。長女のほうも母の不在をさほど気にはしない(といっても次女だって自分の利益のために気にしているにすぎない)。
 どうにも一般的な《家族》というものからはかけ離れた《家族小説》だ。《ダメ家族小説》といってもいいかもしれない。出てくる連中みなそれぞれにダメで、人間のダメさ加減をいかんなく活写した傑作……とまではいかないが佳作とはいえるかもしれない。あまりオトモダチにはなりたくないが。

★★★(2006.3.2 黒犬)

講談社 2000円 4-06-211322-8/講談社文庫 781円 4-06-275106-2

posted by Kuro : 15:31

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