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February 14, 2006

栗田有起『お縫い子テルミー』○

 初出「すばる」2003年6月号。第129回(2003年上半期)芥川賞候補作。表題作と「ABARE・DAICO」の2篇を収録。
 右手のバッグには生活道具、左手のバッグには裁縫道具。生まれ育った島を出て、新宿歌舞伎町で“流しのお縫い子”を目指す鈴木照美。小学校にも行かなかった照美は、ひとまずキャバレーでホステスになるが、そこで女装の歌手シナイちゃんに出会う。
「それぜんぜん似合っていない」照美にステージ衣装をけなされたシナイちゃんは激怒するが、店の寮に帰ろうとする彼女を自宅に連れて行く。照美はシナイちゃんのためにドレスを縫い、やがて「奇跡の一枚」を完成させる。
 読み進むうちに、主人公の照美が15歳の少女であるということがどうでもよくなる。「ABARE・DAICO」の主人公も10歳の少年だが、彼なりの世界を精一杯生きようとしている。読者を選ぶ(としか思えない)いまふうの作品ばかり読んでいると、まだこういうのが書ける人がいるんだと、なんだかほっとする。
 ちなみに著者は2004年6月に発表した「オテル モル」でも第131回(2004年上半期)芥川賞の候補になっている。選評を見ると、河野多惠子、宮本輝という選考委員の中でもシブめの両氏が強く「オテル モル」を推している。

 設定も細部も意表を衝き、且つどこまでも実感に富んでいる。巧まずして今日の社会性も備わってしまっている。衒わぬ明るさも好ましい。(「文藝春秋」2004年9月号/河野多惠子選評より)

 この選評は本書に収録された2篇にも通じる。次作おおいに期待。

★★★★☆(2004.9.13 白犬)

集英社 1400円 4-08-774688-7


posted by Kuro : 23:48

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トラックバック時刻: February 16, 2006 08:42 PM

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トラックバック時刻: September 28, 2007 01:10 PM

comments

こんばんは。TBありがとうございました!
選評の河野多惠子さんの言葉、いいですね。
大好きな作家さんが推していたのだと知って、
この作品に対する思いがよい意味で刺激されそうです。

投稿者 ましろ : February 16, 2006 08:19 PM

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