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February 08, 2006

篠田節子『讃歌』●○

 2006.1.30初版。初出「朝日新聞」2004.9.16〜2005.4.16連載。
 留学中の事故がきっかけで一線を退いた元天才少女ヴァイオリニスト(今はヴィオリストに転向)と、彼女を追うドキュメンタリーを制作するテレビマン。番組がきっかけで彼女は〈癒しのヴィオリスト〉として全国的な脚光をあびるが、同時に様々なトラブルも発生し……。
 なんだかフジ子・ヘミングへのあてつけか(笑)とも思えてしまう長篇。音楽業界テレビ業界の裏側もかいま見せる。しかしヴィオリスト柳原園子にさほど魅力が感じられないのが難点。期待していたほどではなかったなあ。
 あと、アメリカの場面で「国道」はなかろ。

リュックサック一つ背負って国道に立って、翌朝には三百キロも離れた南の町についていた。(p.322)

 一瞬、いつのまにこの台詞の発話者は日本に帰ってきてたんだろうと思ってしまったよ。州道か、せいぜいインターステイト(州間道とでも訳せばいいのか?)だろうに。

★★★(2006.1.29 黒犬)


 初出「朝日新聞」2004年9月16日〜2005年4月16日連載。
 テレビ番組製作会社のディレクター小野は、義理を果たすために行った演奏会で、女性ヴィオリストの弾くアルペジオーネソナタに感銘を受ける。ヴィオリストの名は柳原園子。関係者に来歴を聞いた小野は、彼女の半生を追うドキュメンタリー番組を企画する。
 元天才少女ヴァイオリニストの再生を描くテレビ番組製作現場。ずばりフジ子・ヘミングみたいな話。その感動の再生劇の顛末とでもいいましょうか。さすがチェロ弾き作家が書いただけのことはあって勘所ははずさない。たとえば音大卒のADが元天才少女の演奏を批判するところ。

 西洋音楽の何たるかを理解してなくて、つまり演歌、不安定な構えと、弦から浮いちゃうボウイング、開き直っているのよ。それでかえって人気者になっちゃったから。
(中略)
 日本人が感動するクラシックは未だに大正時代なのよ。宵待草と枯れすすき。ヴィブラートとポルタメントをだらだらに使った、センチメンタルな演奏。そうすれば感動させられることくらいわかっているけど、プロの演奏家なら恥ずかしくて、そんなでたらめな演奏できないわ。(p.274)

 ううむ。やっぱりフジ子・ヘミングの「ラ・カンパネラ」を思っちゃうなあ。
 シューベルトの「アルペジオーネソナタ」はネット上のいろんなところで試聴できるのでぜひ。作中の楽曲を聴いてから読むのも一興でございます。

★★★★☆(2006.3.11 白犬)

朝日新聞社 1700円 4-02-250089-1

posted by Kuro : 00:47

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