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January 07, 2006
大石英司『神はサイコロを振らない』●○
2005.12.20初版。単行本は2004.12.20中央公論新社刊。テレビドラマ化が決まって、急遽文庫におろしたようだ。
1994年8月15日、民間航空機YS-11が太平洋上で突然消息を絶った。しかしその後、懸命の捜索にもかかわらず、エンジンやプロペラはおろか、ライフジャケット一枚すら発見されることはなかった。それから10年後、68名の乗員乗客を乗せたYS-11は、何事もなかったかのように羽田に着陸する。乗っている者たちは10年前の姿のまま……。
なかなか魅力的な設定のSF小説(というよりもIf小説か)。典型的なタイムスリップものなのだが、主眼は「戻ってきたそのあと、人々はどうするか」というところにある。68人もいるんだから、不倫してた人も駆け落ちしてた人も音楽家も犯罪者も幼児もおり、それぞれに家族や友人がいる。宮崎から東京へ向かって、降り立ったら10年後といわれても、そう簡単に受け入れられるものではない。
残されたもの――乗客が戻ってくるまでは「遺族」と呼ばれていた――には普通に10年の歳月が流れており、再婚をしているものもいれば、95年に起きた阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件に巻き込まれたものもいる。彼らは彼らで、戻ってきた乗客とどう向き合うのか。
なぜYS-11が消えて、そして戻ってきたのか、乗客たちはどうなるのか、ということよりも、乗客たちとその家族・友人たちの行動のほうが興味深いし、そもそもそのドラマを描くことが目的だったのだろうと思われる。
で、なかなか楽しく読めたのだが、全体的な評価としては★3つ。文章がところどころ引っかかる。たとえば、
弾の行き先を確認すると、向かいのフルーツパーラーのショーケースがパリンと割れていた。(p.350)
こういう文章、嫌いなんだよなあ。趣味の問題かもしれないが、すでに弾は発射され、どこかに当たっている。ガラスが割れている状態を確認しているのに「パリンと」はないだろうと。「こなごなに」でも「あとかたもなく」でもいいけど、「パリンと」じゃ擬音じゃないか。ひびが入り、大きくいくつかに割れていた状況なんでしょうけど(あるいはそれが床に落ちているとか)、それは「パリン」じゃないと思う。
そんな枝葉末節、どうでもいいじゃん、と思う人もいるだろうし、それはそれでかまわんのだが、ネタがよければいいほど、文章のアラが目立つんですな。もったいない。
★★★(2006.1.3 黒犬)
2004年12月刊の同名作品を文庫化。
1994年8月15日に乗員乗客68名を乗せて消息を絶った報和航空402便YS-11が、10年後、かつての目的地、羽田空港に帰還する。事件直後、トンデモ教授として大学を追われた加藤の説通り、乗客乗員68名の時計は10年前の時間を刻み続けていた。
小林聡美主演でテレビドラマ化。日テレ系列で2006年1月18日(水)夜10時スタート。
死んだはずの家族が戻ってくる。となると、同じく映像化された梶尾真治の『黄泉がえり』を思い浮かべるが、こちらはタイムスリップもの。理論的なつじつま合わせはさておき、本作は「さいきんの10年」という時間設定に尽きるような気がする。中途半端で気が利いている。携帯電話やインターネットが飛躍的な進歩を遂げていたり、小学生だった子供が大学生になっていたりもするが、右も左もわからないほど劇的に変わっているわけではない。
失われた10年分の隔たりを埋めようとする人々。事情を知る者たちの惜しみない助力が清々しい。こたつみかんのおともに。
★★★★(2006.2.1 白犬)
中央公論新社/中公文庫 590円 4-12-204623-8
posted by Kuro : 15:56
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